大学教育センターから 高等教育研究開発センターへ  

−センター改組の概要と今後の課題−
高等教育研究開発センター長
工学部第四類・運動システム講座教授
 茂 里 一 紘(Mori, Kazu-hiro)

 今日、大学教育を中心とする高等教育には多くの課題があります。それは、ひとり広島大学の問題でなく、我が国の課題であり、あちこちの国にまたがる地球規模での課題でもあります。このような状況の中にあって、当センターは、学内外のご理解をえて、この四月、「大学教育研究センター」を改組し、「高等教育研究開発センター」(英文名:Research Institute for Higher Education)として新たに発足しました。新しい組織の基本目標は、これまで大学教育研究センターでなされてきた高等教育に関する基盤的研究をさらに充実発展させると同時に、応用的・開発的研究をさらに推進し、歴史的・社会的要請に対応して、不断の高等教育の改革に貢献することです。また、高等教育に携わる専門家や研究者の人材育成を目的とし、大学院教育に主体的に関わります。

 



一、なにをするか

 「大学教育研究センター」は、一九七二年五月、我が国最初の高等教育に関するセンターとして設置されました。以来、活発な研究活動によって、高等教育研究のナショナルセンターとして機能を果たしてきましたが、さらに新しい境地に進む必要があります。
 「高等教育研究開発センター」は、これまでの基盤的研究に加え、課題解決のための応用的・開発的研究を意図的に進めるため、従来の8教育・研究領域を「比較高等教育論」、「高等教育国際化論」、「大学教育論」、「大学カリキュラム開発論」、「高等教育目標論」、「高等教育政策・財政論」「高等教育組織論」、「高等教育評価論」と改組整備し、新たに「高等教育職員開発論」を加え、9領域の構成としました。いずれも、高等教育の今日的・将来的課題について体系的な研究を行おうとするものです。特に「高等教育職員開発論」は、高等教育における教職員のありかたを研究し、大学院教育とも連携し、高等教育に関係する人材の質的向上に資することを目的とする研究領域で、我が国で最初のものです。
 広島大学では、来年度からAO入試の導入がなされます。センターでは、本学のAO入試の実施部署に協力し、大学への学生の受け入れのありかたについて広く研究するため、新たに「アドミッション研究部門」を整備することを検討しております。

センターの銘板(上)と案内板(下)
 


二、学んでみませんか

 センターは教育学研究科の前期課程として「高等教育開発専攻」を開設し、大学院教育を担当します。この目標は、高等教育に関する最先端の理論的・実践的研究活動をとおして、幅広い知識と高度な専門能力を身につけた研究者および高度専門職業人を育成することです。修了生は、高等教育機関における研究者や専門職員を始めとして、行政機関、マスコミ、出版界、コンサルタントなど広範な分野で、高等教育に関する見識を持った専門家として活躍することが期待されています。現職の大学職員も積極的に受け入れます。博士課程後期では、「教育人間科学専攻」を担当し、「課程博士」の基準にのっとって研究支援し、学位を授与します。
 特徴的な授業として、大学教員を目指す本学の大学院学生を対象として、「困った大学教員にならないために」というキャッチフレーズのもと、「キャリアアップゼミ」を開講しております。それは、本学大学院修了生が、いささかなりとも大学教育に関する見識をもって大学教育に携われるようにするためのものです。


三、どんな事業をやっているか

 センターは、学内外から、高等教育の中核的研究機関として専門的立場にたった事業の展開が期待されています。それは、センターの研究成果を実現させたり試行する機会であると同時に、センターの社会的責任を果たしていく機会でもあります。主なものは次のとおりです。
○公開研究会の開催─専門的研究のみならず、構成員が関心を抱いているテーマについて随時開催します。学内の部局や委員会との共催もやっております。誰でも参加できます。
○学内FDの開催─今年から、広島大学では本学教職員を対象として、年4回FDを定期的に開催することになりました。そのうち、初任者研修会(五月)、授業研究(七月)および研究講演会(十一月)をセンターが分担担当します。
○研究員集会の開催─センターの定期的研究集会で、学内併任研究員や学外客員研究員を主な対象としますが、本学教職員のFDも兼ねて開催し、どなたでも参加できます。
○出版・情報提供サービス─『大学論集』、『高等教育研究叢書』等の出版や高等教育統計データや文献目録等の情報サービスをしております。センターの情報調査室(資料室)はどなたでも利用できます。高等教育関係の新聞報道記事の紹介もしております。
 公開研究会などの開催案内や情報提供サービスなどはホームページで案内されております。
http://home.hiroshima-u.ac.jp/rihe/Japanese/index.html

センターの出版刊行物
 


四、教職員はみな研究仲間

 六月二十五日、改組を記念してシンポジウムを開催しました。その特別講演の中で、講師の天野郁夫氏は、「高等教育は色々な専門を持つ人たちが集まってくる場所である。色々な人が集まって初めて高等教育研究はなりたつ。センターはこれまで以上に学内外の集まりの場となって欲しい」という趣旨の話をされました。大学に籍を置き、教育研究、管理運営(事務)に携わる全ての人は高等教育の(潜在的)研究者ないしはその仲間という趣旨かと思います。この理解が正しいとすれば、センターのこれまでの運営や研究活動の方針は一定の見識であったことになります。
 センターでは学内の色々な分野の先生方に運営や研究活動に参画してもらっています。運営委員会委員は勿論、センター長もセンターの専任教授だけでなく多くの部局の先生方が併任してきました。学内併任研究員については、人数に制限がありますが、重点的課題を定め、関係の深い先生方に加わっていただく形で「集まりの場」の中核的役割を果たすようにしています。本学で教育研究および管理運営に携わる教職員は全てセンターの"affiliate"(研究仲間)です。公開研究会も、経済学部やベンチャー・ビジネス・ラボラトリーと、また特定課題については事務局や本学各種委員会と共催で開催してきております。
 ところで、本学を「センター付属広島大学」と称しては不謹慎でしょうか。教育現場と教育担当者から離れた高等教育研究はありえません。広島大学を高等教育の実験研究の場とし、大学づくりに貢献するとともに、その結果を学問的に整理し、社会および全国、全世界の大学に提供する、それが新センターの目指すところでもあります。

改組記念シンポジウム
 


五、これからのこと

 国立大学の附置研究所やセンターは、教育機能を本務とする学部や研究科とは異なり、時の課題解決に向けた研究に機動的かつ先導的に取り組むことが求められております。これからも変わらず求められます。
 高等教育研究開発センターには、全国最初に設立された高等教育に関する中核的研究機関であるという自負があります。国立大学の独立行政法人化が確定的なった今、本センターは、構成員の皆様のご理解とご協力をえて、新たな役割を意識し、財政的基盤の構築や組織の形態も含めて、長期的視点に立った展望と戦略をもって教育研究を進める必要があると考えております。




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