学長インタビューNo.36

 大学職員の意識改革 
"Ask not what your university can do for you;
Ask what you can do for your university"



 SDをご存じでしょうか。スタッフ・ディベロップメント、大学職員の資質と能力向上の努力を指します。大学教員を対象としたFD(ファカルティ・ディベロップメント)は良く耳にしますが、FDと同様に、これからの大学改革に欠かせないキーワードとなるようです。学長は大学セミナーハウスで『大学の機構改革と職員の意識革命』という講演をされたとお聞きしましたので、大学職員がこれからどうあるべきかを中心にしながら、広島大学への思いも併せて語っていただきました。
広報委員  二十一世紀を目前にして、これまでの枠組みの見直しが国家レベルで行われています。その一つとして国立大学の独立行政法人化が避けられない状況となっているようですが、大学を取り巻く状況について、学長の考えをお聞かせ下さい。
学長 ごく近い将来に、大学が一つの法人格を持った高等教育機関として、競争的環境のなかで再スタートをすることになります。来るべき定員削減に対応するためには、機構改革を積極的に行うことが重要です。今、大学においても事務機構の見直しをやってもらっていますが、それ以上に重要なのが、それを支える教職員の徹底した意識改革です。大学はこれまでの研究中心主義から脱却し、教育・研究・サービスという三つの活動を通じて社会の発展に寄与することがこれまで以上に求められています。大学職員は自ら大学経営の一端を担っているのだという自覚を持ち、慣行主義や前例主義を打破して事務の効率化をしなければなりません。
広報委員  よりよい形で大学が機能していくために、どのように大学職員が変わっていけばよいのでしょうか。教育面、研究面、サービス活動面、管理運営面等のさまざまな場面があると思われますが、それぞれの場面について具体的な考えをお聞かせ下さい。

広島大学長 原田康夫



教育と研究に対するサポート

学長 教育面では、学生に対する個別指導やカウンセリング活動、また、課外活動等の自主的活動の支援などをすることがあるでしょう。また、外からのアクセス、例えば広大を受験したい人に、セールスポイントをきちんと話すことができて「お待ちしております。」と言えるくらいの意識が欲しいのです。受験者が多い方が受験料収入も上がるわけです。学内外でサービスをきちんとする大学職員が必要です。
 一九九二年から二○○○年までに、十八歳人口が一気に五十万人減りました。たった八年間で四分の一減です。この状況で大学がどうやって生きていけるでしょうか。どのようにして学生を確保するか、これを考えなくてはなりません。
 そのためには、大学職員もある意味で教育のプロにならなくてはなりません。大学教員は教える方のプロかもしれないけれど、教える技術をちゃんと支えて、教えやすいようにするのも大学職員の役目です。例えば教室をうまく使えるようにしたり、学生の受講に対して良きアドバイザーになれるようにね。
広報委員  研究面での支援としては、どのようなことがありますか。
学長 大学教員は、科学研究費を獲得するにはどうしたらよいか、使い方はどうするかなど、今までも大学職員の方にだいぶ助けを借りていたわけです。これらのことも、研究協力課に来ていただいたらすぐに情報を出してもらえます。大学職員がイニシアティブを取って先生方に教えなくてはならないことがいっぱいあります。若い先生など、何も知らずに大学に来ることもあるから、そういう人たちに教えることも出てきます。


サービス活動の充実

広報委員  サービス活動面としてはどのようなことがあるでしょうか。
学長 大学審議会では人事交流や民間での研修をやるように言っていますが、広大でもデパートに勉強に行くなど、接客の方法の学習が既に始まっています。
 さらに、これからはよりプロフェッショナルな人材が求められています。例えば、留学生課では、英語も中国語も、東南アジアの言葉もできる人、つまりスペシャリストを養成する必要があるわけです。現在五十九カ国から約七百二十人の留学生が来ているのに、対応が十分でない場合もあります。そういうことが無くなるようにしたいのです。彼等に、広大が第二の故郷であると、良い感情を持って帰ってもらいたいのです。
 また、この研究だったらこの人がいますとか、一人ずつのプロフィール、研究者総覧を、きちんと外に出せることも大切です。このように、推薦できる機関として広島大学情報サービス室をつくりましたが、今まで大学が外に向かってサービスしていたことがなかったでしょう。宣伝や情報提供することも大切なことです。
 現場で困ったことがあっても、その情報が学長まできちんとこないことも考えられなくはありません。緊急に手配してもらわなければならないことを上司にどんどん言う大学職員でなくては困ります。どういうことが起こりそうかということを、未然にキャッチし防止するような手だてを打てる大学職員が必要です。


管理運営のプロとして

広報委員  管理運営面としてはどうでしょうか。
学長 管理運営というのは、学長だけでなく大学職員がやることが多いわけです。うちの大学職員はよくできる人たちばかりですが、現在、その人たちが自由に新しい改革をして、自分たちの考えで大学がよくなるような、また事務組織がもっとスムーズに動くような方法も考えてもらおうとしています。
 今アメリカでの一番の動きは、大学職員に、お金集めのプロがいるということです。資金獲得Fund Raisingを学長だけがやっているのではダメです。「この方法でお金が集まります。私がもらってきます。」と言えるスペシャリストがでなければなりません。だから、管理のプロフェッショナルといえる人をこれから養成したいと思っているわけです。
 また、ディベロップメントのための業務としては、企画能力がいります。そういう人たちを養成するのはこれからであり、そのオフィサーが課長及び課長補佐になります。だから、うちの大学の職員も、夜間大学院へ入ってもらうなり、新設した高等教育研究開発センターで研修してもらうなりして、スペシャリストとしての心構えと勉強をしてもらおうと思っています。
広報委員  そのような形で、高度に専門的な知識を持った大学職員を養成するというわけですね。最後に、望まれる大学職員の条件をお聞かせ下さい。
学長 これからの大学職員に必要なものは、問題発見能力の向上、合理的な思考ができるような訓練、そして適切な自己呈示能力と交渉力、これらのことだと考えています。
 トータルで日本一というのはなかなか難しいけれど、広大は日本一になっていることがいっぱいあります。だからこそ、"Ask not what your university can do for you; Ask what you can do for your university."「大学が自分のために何をしてくれるかではなく、自分が大学のために何ができるかを考えて欲しい」のです。これはジョン・F・ケネディの演説から考えた言葉ですが、これを大学職員も大学教員も、皆さんが意識してくれて初めて、広島大学が良くなると思います。
広報委員  大学教員や大学職員が、お互いの顔がいっそう見えてくる関係になると良いですね。
学長 そうそう。本当はお互いの顔が見え始めているわけです。毎年三月にグリーンピア安浦で行っているFD、全学研修会なんかでもね。大学の中の人たちが、我らファミリーという気持を持たなくてはならないでしょう。
 みんなが自分たちの大学だという意識を持つと同時に、自分は何によって守られているかということを知らなければなりません。そして、自分はこの大学のために何ができるかということをいつも考えて、広大を発展させて欲しいと願っています。


加藤広報委員

三根広報委員


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