自著を語る

『生物学と人間』
赤坂 甲治 編
赤坂 甲治,丹羽 太貫,渡辺 一雄 著
(A5版,203ページ)
2,200円(本体)
2000年/裳華房
 



 基礎科学の中で近年の変貌がもっとも著しいのは生物学である。二十一世紀は生物科学の時代とされ、米国の大学の理工系学部で生物学を必修教科とする動きが広がっている(MITの一九九三年に始まる)。生物学の現況は分子生命科学と生物多様性論(個体レベルの種の生物学)に峻別されている。実は両者は車の両輪であり、専門書はいざ知らず一般教養書にあってはこの両者は止揚されねばならない。日本の生物教育(教科書、カリキュラム、入試)はこうした情勢に明らかに遅れをとっている。
 この本は「第一線の教育、研究現場での実感」をもとに執筆した点に特色がある。企画執筆は理学部の赤坂甲治助教授、原爆放射能医学研究所の丹羽大貫教授(現、京都大学教授)と私の三人である。旧来の生物学教科書の体系を一新し、高卒の学力で充分理解できるよう分子細胞生物科学の基礎の解説をもとに、遺伝子科学、基礎医学、分子発生学と形態形成論、およびこれを踏まえた生物多様化、人類進化、地球環境問題までを解説した。文系を含む幅広い学生層だけでなく、基礎医学教育、看護教育を視野に入れ、売れる教科書を目指した。内容を基礎的標準的事項に限り、章ごとの執筆者は明記せず総合責任者として若く元気な赤坂氏が全体統一の労をとった。多忙と丹羽氏転勤など難産の末、最後は赤坂氏の献身的努力の結果、日の目を見た。
 本書の構成と実質的な執筆者は、○生物は物質からできている(赤坂)、○生命の基本構造(赤坂)、○生命活動は化学反応(赤坂)、○細胞から個体へ(渡辺)、○遺伝子(丹羽)、○身体の代謝の維持と活動の調節(赤坂)、○生体防御(丹羽)、○生物の多様性と進化(渡辺)、○人間と環境(渡辺)である。幸い全国的に受け入れられ、刊行が教科書選定期に遅れをとったにも関わらず初版第一刷は完売寸前と聞いている。二○○一年度の売れ行きが楽しみである。教科書としてだけでなく、分子生物学を踏まえた基礎生物学の知識に不安がある医師や大学院生の勉学にも充分耐える自信がある。


プロフィール        
(わたなべ・かずお)
☆一九四三年兵庫県宝塚市生まれ
☆京都大学大学院理学研究科博士課程修了(理学博士)
☆大阪大学大学院医学研究科(微生物病研究所)助手、鐘紡がん研究所主任研究員、広島大学総合科学部助教授を経て一九九四年同教授
☆一九八九〜一九九○年ケースウェスタンリザーブ大学客員助教授
☆著書:『岩波ジュニア科学講座』岩波書店、 一九八五、ほか
☆専門:動物発生学、形態形成論、種生物学





広大フォーラム32期3号 目次に戻る