自著を語る

『中国語における「空間動詞」の文法化研究−日本語と英語との関連で−』
著者/盧 濤
(A5判,275頁)6,600円(本体)
2000年/白帝社
 



■ピントこない書名だな。「空間動詞」の文法化って、どういうこと?
 「空間動詞」は不適切な命名かも知れないが、意味的にも統語的にも、広い意味での場所または方向と緊密に関わっている動詞のことで、日本語の「いく」や英語のgoが典型的な例だ。「いく」が「 ていく」の形で、goがbe going toの形で抽象的な文法的意味を表して、述語として働く一方、文法語としても機能する。これが文法化ということだ。この本では、世界の諸言語において普遍的に観察される文法化のプロセスの原理を立証しながら、中国語の文法構造はどんなものか、そしてなぜそうなっているかという問いへの答えを探っている。

■なぜ母国語の中国語の研究に取り組んだの?
 長年日本にいながら、母国語を研究することに、みんなびっくりしていたよ。でも考えてみて。日本文学を研究する場合でも、アメリカのコロンビア大学を訪問しなければならない時代になったからね。筆者は日本語の専攻だった。日本語の学習と研究を続けるうちに中国語のことを考えたくなってきた。いわば日本語研究の延長線上の中国語研究かな。日本語をやらなければ中国語に目を向けることもなかっただろう。

■日本語での執筆の感想は?
 苦労話しを語るのは、賢明ではないが、外国語での「作文」は確かに難しい。母国語ほど安定し固まったものではないので、いつもことばの取捨選択に悩まされる。二倍から三倍もの労力がいるかも知れない。ただ常にことばを丁寧に使わなければならないという緊張感のなかにいるので、時間をかけてじっくり考えをまとめる習慣が付くね。文章鍛錬には外国語がいいかも知れない。

■自著への自己評価を聞かせてください
 ことばは歴史的プロセスであり、創造性の産物でもある。そういう意味では、ことばの研究も創造的なものでなければならない。体系的な文法化理論の形成はここ十数年の間のことで、さらなる研究が望まれる。この本は研究の出発点にすぎないというところか。


プロフィール        
(ろ・とう)
☆一九六〇年中国東北生まれ
☆一九九六年神戸大学大学院文化学研究科文化構造専攻博士課程修了
☆一九九八年広島大学総合科学部外国語コース赴任





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