フォトエッセイ(53) キャンパスの生物


文写真 都築 政起
(Tsudzuki, Masaoki)
生物生産学部畜産科学講座
           


 オオシャモ 
(Gallus gallusよりつくられたニワトリの一つ)
 

オス

闘争中のオス

メス

オスの頭部(見よ! この根性のすわった顔)

見よ! この長大な蹴爪
  
 
 オオシャモ。漢字で書くと「大軍鶏」。「軍鶏」の文字が表すように、オオシャモは元来闘鶏である。また「大」の字が示すように大きい。成熟したオスの体高はヒトの大人の腰の高さに達する程であり、体重も通常でも五キロ前後、大きなものでは七〜八キロにも達する。また、直立した体型、ワシ・タカを思わせる鋭い眼光ならびに湾曲したクチバシ、長大な蹴爪が特徴的である。実に威風堂々たるニワトリである。通常のニワトリとあまりにも異なるため、オオシャモはニワトリではないと思う人もいる程である。その名が示す通り、シャム(タイ)から、約三百年前に元となるニワトリが伝来し、その後、我が国において品種として確立されたと考えられている。
 世間には、動物愛護の名の下に、闘鶏を短絡的に禁止しようとする動きもあったりするが、筆者は、家畜遺伝・育種学的あるいは家畜品種論的観点から、この動きには反対である。素人的な表現をすれば、オオシャモの遺伝子は極めて強い。他品種との交雑が起こった場合、雑種の外観、攻撃性ともに、一見純粋オオシャモとの間に差が存在しなくなる。しかしながら、実際には大きな相違点がある。すなわち、闘争における「根性」である。ニワトリは、どの品種でも、オス同士が出会えば一度は闘争を行う。しかしながら、短時間で決着がつき、負けた方のオスは逃避行動をとる。ところが、オオシャモでは事情が一変する。ひとたび闘争を開始すれば、人間の手で引き離さない限り、死ぬまで闘争を止めない。これが「根性」である。話をもとに戻す。すなわち、闘鶏を行って、そのケンカ根性を見ない限り、純粋のオオシャモか雑種かの区別がつかない訳である。長い年月をかけてつくられた日本固有のオオシャモという品種の純粋性を保つためには、闘鶏は必須であると考える次第である。ちなみに、オオシャモでは、オス成体ばかりでなく、メスもヒナも同様に闘争を行う。多数存在するニワトリ品種の中で極めて特異的な品種である。
 その闘争能力の他に、オオシャモは産肉量が極めて多い品種である。しかも旨い。一度食べたらスーパーで売っているブロイラー肉は食べる気がしなくなる。これは生物生産学的には大きな魅力である。医学生物学的観点からはその闘争行動を支配する遺伝子群を、畜産学的観点からはその産肉量と肉の旨さを支配している遺伝子群をそれぞれ明らかにすべく、筆者は奮闘努力中である。



   

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