ニワトリ型モノクローナル抗体
文・ 松 田 治 男
(Matsuda,Haruo)
生物生産学部 免疫生物学教授  



 ニワトリをはじめとする鳥類は、系統発生学的にほ乳類よりはるかに下等であるが、免疫能力は精緻であり、ことに抗体産生能力はほ乳類に勝る側面さえ持っている。このため、従来ほ乳類で作成が不可能であった種々の抗原物質(とくにほ乳類高度保存抗原分子など)に対して、優れた特異性をもつニワトリ抗体の作成が可能である。
 以下に示すニワトリモノクローナル抗体の作成技術についての二つの特許(一つは出願中)は、細胞融合法で用いる融合用ニワトリB細胞株(I)と遺伝子組換え法で用いる発現ベクター(II)に関するものである。融合用ニワトリB細胞株の特徴は、チミジン・キナーゼ(TK)欠損のニワトリB細胞株で、これを用いることによって融合細胞のみがHAT選択培地で増殖可能となる点である。とくにこのB細胞株は、BハイブリドーマをTK欠損した点で融合効率を大きく高めた点に特徴を持つ。また、後者の発現ベクターは、ニワトリモノクローナル抗体について、ファージ発現型抗体や可溶型抗体の作成を可能にしたもので、このベクターは従来のマウス抗体発現型ベクターを改変し、一本鎖抗体(single chain Fragment of variable region , scFv)遺伝子に検出用タグとしてニワトリL鎖定常域とFLAG(8アミノ酸からなる合成ペプチド)遺伝子を接続することで、非特異性の排除と精製を容易にした点に特徴を有する。
 これらの技術を用いて、最近では、狂牛病やクロイツフェルト・ヤコブ病の病原体であるプリオンタンパクを特異的に認識できるニワトリ型モノクローナル抗体の作成に成功している(この抗体は、従来のマウスモノクローナル抗体と比較して非特異性のほとんどない優れた抗体であったことから、高い評価を得ている)。


[I]発明の名称:ニワトリ特異イムノグロブリンG産生ハイブリドーマ
発 明 人:松田治男,西中重行,鈴木 隆
特 許 権 者:日本鋼管
特 許 番 号:第2015815号(平成8年2月19日)

[II]発明の名称:ニワトリ型モノクローナル抗体
発 明 人:松田治男,中村尚登
特 許 権 者:科学技術振興事業団
特許出願番号:特願2000-54875号(平成12年2月29日出願)








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