学長インタビューNo.37

 社会人学生に期待すること 



 この秋からフェニックス入学制度が始まり,8名の方がそれぞれの知的好奇心と夢を抱いて入学しました。学長自身も69歳の現在もなお研究者としてオペラ歌手として精力的に活躍され,最近では「生活ホットモーニング」というテレビ番組で三つの顔をもつ学長として紹介されています。大学と社会との関係が新たな局面を迎えた今,社会人学生とその制度のあり方について期待されることを語っていただきました。
広報委員 生涯学習を提供する場として、これまで大学は公開講座などを通じてその役割を果たしてきています。さらに社会人がその身分を保持したまま入学する社会人特別選抜制度が施行され、現在大勢の方が在学しています。そして、今度は国立大として初めて六十歳前後の年配の方にも新たな門戸を開きましたが、これらの制度を導入された意義についてお聞かせください。
学長 大学はあらゆる知的なニーズに応えなければならないし、あらゆる人に開放しなければならないと思います。つまり生涯学習やその人のキャリアアップのために、社会人の再教育機関として大学を開放するということです。十八歳人口のみを対象とするのではなく、生涯学習という意味からも広く社会に向けて門戸を開いておくということは大切でしょう。さらに、社会人にとって学びたいと思ったそのときが適齢期なのです。いつでも学びたいときに学べるという大学機関でなければならないと思っています。特に十八歳人口はピークであった一九九二年から現在で五十四万人も減り、二〇〇八年には八十一万人も減るので、独立行政法人化後には、今言ったような制度を整備していないと定員割れも起こります。

広島大学長 原田康夫



社会人特別選抜制度の充実に向けて

広報委員  つぎに、社会人学生の入学制度としては大学院、フェニックス、そして夜間主コースと大きく三つに分けられますが、それぞれについてお尋ねしたいと思います。まず、大学院の社会人学生にはどのようなことを期待されているでしょうか。
学長 彼らは自分たちの身分を残して入学しているわけで、キャリアアップをすることとか、あるいは今までの自分の仕事に欠けたところを補うといった目標があります。広大のような大きな大学になると、その人が学びたいとする先生が必ずいます。そういう先生のところへ自由に行って、何年かかってもよいから十分勉強してほしいと思います。
広報委員  そういった人たちに対する現在の支援体制はどのようになっているでしょうか。
学長 社会人学生がゼミに入るときは、そこの先生が良く目をかけて配慮していただくよう、毎年のFD(教員研修)で申し上げています。来年の三月のFDで、社会人学生をどう受け入れていくかという体制の再構築を、テーマとして掲げるのもよいかもしれません。また、独立行政法人化後には、その人たちの授業料を少しでも安くして、余裕をもって勉強できるような、十八歳から入ってきた人とは異なる待遇も考える必要があるでしょう。
広報委員  実際、手元の資料ではここ二年で大学院だけでも社会人が百人くらいは入学されているわけですから。
学長 まだ、わずか百人でしょう。学部のフェニックス入学でも毎年、一般学生の一割は取ってもよいと思います。  


フェニックス入学生への期待

広報委員 ちょうど、今フェニックス入学の話が出ましたので、それについても少し具体的な話をお聞きしたいのですが、まず今年入学された一期生の方々にどのような期待をされているでしょうか。
学長 今年はフェニックス入学に八人合格しました。年齢は五十七歳から六十九歳の間で女性が二人います。皆さん、自分たちが長年やりたかったという目標を持っています。そういう明確な目標を持った人たちに大学は門戸を開いて、同時に援助するということができれば、これからの大学というのはもっと活性化するでしょう。例えば、そういう人たちが教室で一所懸命勉強するのを見ると、若者にとっては刺激になるし、教える側も威儀を正して教えるといった教育効果もあるでしょう。また、その人たちがこれから取り組む研究でも、博士号を取って就職するためというのとは違って、生涯の目標として永く続けていただきたい。世界的大発見ではなくても、一般学生とは異なり、ときにはその人の名が引用されることはあると思います。
 大学は知的集積と継承であると言われるけれども、時には集積しないことがあります。先生が辞められたら、使っていた機械だって忘れられたりすることがあります。フェニックス入学制度により入ってきた人の中から、その先生の仕事を継承したいという人が出て、その仕事の火を消さないようにすれば、本当の意味で知的なものの継承が大学で可能となるでしょう。こういったことで、大学はみんなの夢をかなえるところであると世の中から見直されれば、大学に対する見方も変わってきます。
 今、何故、独立行政法人化と外から言われているのかというと、世の中の人には、今これだけ社会が変化してきているのに、大学は全く変わらず、社会に向けて何も発信しない、大学の中に閉じこもって出てもこないじゃないかという思いがあるわけです。そういうことから私は、こういった制度で社会への門戸開放を実施したのです。
広報委員 実際、まだ始まったばかりなのですが、サポート体制などについてお聞かせください。
学長 この間、八人の方にそれぞれの目標について直接お聞きし、激励しました。担当の先生方にも、お願いしたのですが、特別の目をもって、手を差し伸べるというのが大切だと思います。研究は何年かかっても良い、という気持ちでいいわけです。経済的なことでは、TA(ティーチングアシスタント)などに早く採用できればよいと思っています。


社会人学生を受け入れる大学の心構え

広報委員 では最後に社会人学生を受け入れる大学の心構えについて、考えをお聞かせください。
学長 これからの時代は、ここに勤めていたら一生大丈夫ということでなくなり、キャリアアップなどのために新しい技術の開拓をして、自分の身の処し方を決めていかなければならないでしょう。そのときに大学は非常に大切になってきます。十八歳の人よりもむしろそういう人たちの方が大学を大切にするようになるかもしれません。学士入学によって二年で専門の知識をもう少し勉強するとか、あるいは大学から就職を再び世話してもらうとかなど、大学と社会がますます密接な関係になってきます。そういう環境を大学が作らなければいけません。どうしたら社会の人が喜ぶかを考えるべきです。これからの大学を本当によい大学にしようと思ったら、生涯学習で来られる方も含めて、その人たちを大切にして、その人たちが満足するようなカリキュラムで教えてあげて欲しいと思います。
 これからの少子化や独立行政法人化に対して、大学の生きる道として、生涯学習のための教育は、今後、より比重が高まってくるものと思っています。


井村広報委員

伊賀広報委員

インタビュー後,テレビ放映されたビデオを見ながら談笑

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