フロンティアとは「最先端」という意味でよく使われますが、「辺境」という意味もありますね。私は、地球生物圏のフロンティア(辺境)に生きるものに興味を持ち、深海生物の調査を行ってきました。太陽光の届かない暗黒の世界、そこでは光合成による生物生産はなく、もっぱら海洋表層からのおこぼれに頼って生きていくしかありません。しかし、深海底には地球内部から熱と化学物質(水素、硫化水素など)が湧き出す場所(熱水噴出孔)があり、それを利用した異質な生態系ができあがっています。光合成に依存した「太陽を食べる生態系」と、深海底で脈脈と生き延びてきた「地球を食べる生態系」があるということです。しかし、最近になって、もっと異質な生態系のあることが分かってきました。
|
熱水噴出孔の下の生物圏 |
写真1)伊豆・小笠原弧の水曜海山(水深一三四七)から噴出する熱水中に観察された微生物の蛍光顕微鏡写真。アクリジンオレンジで蛍光染色した。 |
(写真2)大西洋中央海嶺のTAG熱水マウンド(水深三六四〇)。ロシア正教の教会堂に似たチムニー(煙突)が林立する場所はクレムリン・サイトと呼ばれている。 |
好塩性の微生物 |
(写真3)大西洋中央海嶺のTAG熱水マウンド(水深三六四〇)でつくられたパイライト(A)の表面に群がる微生物(B)。《撮影:核燃料サイクル開発機構》 |
南極の微生物に近縁? |
南極での調査 |
(写真4)ロス海に面する南極大陸ハレット岬(南緯72度15分) |
(写真5)イタリア南極基地(テラノバベイ基地)。積雪の少ない露岩域に設営されている。約80人が起居する。 |
(写真6)テラノバベイ基地付近のエドモンソン・ポイントに発達するコケ群落。夏季の気温は0 ℃を上回ることもある。マーカーの割り箸は10 cm間隔。 |
ハロモナス・バリアビリスの謎は深まる |
地球生物圏で最強の微生物? |
プロフィール ☆一九八九年筑波大学大学院修了後、海洋科学技術センター研究員。 ☆一九九四年から広島大学生物生産学部助教授 ☆一九九五年から海洋科学技術センター客員研究員(兼任) ☆著書『深海生物学への招待』、訳書『生物海洋学入門』 |