自著を語る

『日本の水環境行政』
日本水環境学会編
執筆/岡田光正,ほか
(B5版,284 ページ)3,600 円(本体)
1999年/ぎょうせい

『Water Pollution Control and Policy Management: The Japanese Experience』
Mitsumasa Okada, Spencer A. Peterson編
(B5版,287ページ)4,600 円(本体)
2000年/ぎょうせい  



水質環境基準の根拠は?
 本書のような教科書の必要性を最初に感じたのは、もう十年以上前になる。ある国際会議の場でわが国の研究者が、日本の環境基準に関して報告を行った。曰く、「類型AはBODで2mg/l 以下であり、類型Bは…」。その時、ある外国人が質問した。「基準値はわかったが、それはなぜ必要か? どのような考え方、また科学的根拠に基づいて決めたのか?」残念ながら、私も含め、この質問にきちんと答えられる日本人はいなかった。
 環境基準をはじめ、様々な環境保全のための施策は、何らかの科学的、技術的な情報に基づいて決定される。もちろん、すべての環境事象が既知ではないため、不十分な情報に基づいて基準値や施策を決める場合もある。科学的根拠が不十分でも何らかの施策を進める以上、科学的知見が進歩した場合、速やかに見直さなければならない。したがって、基準や施策を決めた時点での科学的、技術的根拠を系統的に整理し、資料として残していく必要があろう。
 では、わが国の現状はどうか? 現在の審議会や委員会では、それなりの科学的、技術的根拠と専門家の議論をふまえて基準や施策が決定されている。しかし、それが系統的に整理されることは少ない。多くの資料や議論の経過は時間の経過、担当者の転任とともに散逸していく。次第に基準や施策の科学的根拠や決定の経緯が不明になる。そして、教条主義的に基準の遵守をせまったり、施策が実施される危険性が増大する。  

日本の水環境保全対策の歴史
 わが国の環境行政は既に二十年を超える。JICAなどの事業を通じてわが国の環境施策を紹介する機会も増えた。わが国の環境行政やその成果に関する歴史書がそろそろ必要な時期と考えた。このような背景から、本書では二十名を超えるわが国の水環境の研究者、行政担当者で分担して執筆を行い、国外に向けても理解を得るため、日本語版と英語版とを出版した。環境行政や施策の歴史とその科学的根拠を御理解いただければ幸いである。




プロフィール        
(おかだ・みつまさ)
☆一九四八年甲府市に生まれる
☆一九七三年東京大学大学院修士課程修了(工学博士)
☆環境庁国立環境研究所、米国環境保護庁Corvallis環境研究所、東京農工大学助教授を経て広島大学工学部教授
☆専門:環境化学工学、生態工学




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