大学院社会科学研究科

 マネジメント専攻新設記念シンポジウム 


 
 今年度から大学院社会科学研究科のマネジメント専攻が発足したことを記念して、去る十月二十八日、本学東千田キャンパスにおいて、社会人向け夜間大学院の役割をテーマとしたシンポジウムが開催されました。そこで大学による社会人教育の現状と、社会が大学教育にどのようなことを期待しているのかを探るべく取材してきました。


地域とのインターフェイス・知的共創の場

 マネジメント専攻は、法学部・経済学部を中心として大学全体および広島県、広島市、地元経済界の協力の下に、社会人教育を目的として夜間および土曜日に開設され、この五月二日から授業が始められました。これは社会科学系の分野としては中国地方で初の試みであり、地元のみならず全国的にも注目を集め、今回のシンポジウムにも約百八十名の参加者を得ました。
 シンポジウムは、牟田泰三広島大学副学長と前川功一社会科学研究科長の挨拶から始まりましたが、その中で広島大学の東広島市への移転にあたり、東千田キャンパスを地域とのインターフェイスとして広島市内に残すと同時に、社会人向け夜間大学院の拠点としての構想が練られてきたいきさつ、地方都市では初めての試みということで発足へ向けての不安はあったものの、この春からの実施では予想を上回る好発進となったこと、また、東広島と東千田間の距離的問題を緩和するため、双方向授業システムを活用していくことなどについて述べられました。特に前川教授は、大学教員と社会人が交流し、互いに補完することにより、マネジメント専攻が知的共創の場と成り得ることを強調しました。

牟田副学長による挨拶

シンポジウム会場:熱心にメモをとる参加者



大学院の経営戦略

 これに続いて、筑波大学大学院経営・政策科学研究科の鈴木久敏教授による基調講演が行われました。筑波大学は、全国に先駆けて一九八九年度から社会人向け夜間大学院を制度化しており、マネジメント専攻も計画段階において筑波大学の事例を参考にしています。鈴木教授は、筑波大学における社会人大学院が成功した理由として、顧客である社会人の立場でニーズを考えたことが大きな要因であったこと、方針としては問題解決能力を持った高度職業人の育成のために学際的知識を提供したこと、また、今後全国的に社会人大学院の開設が増えていく中での競争・淘汰に生き残るためには、差別化、提携といった大学院の経営戦略を明確にしていく必要があることなどを述べられました。


日本企業人の国際的競争力低下

 基調報告としては、文部省高等教育局大学課課長補佐の松ケ迫和峰氏による「社会人向け夜間大学院の役割」、株式会社モルテン代表取締役社長の民秋史也氏による「経済界から見た社会人向け大学院に期待するもの」の二つが提供されました。松ケ迫氏は、大学審議会答申に基づき、今後到来するであろう大学全入時代において、学部・大学院・社会人大学院がそれぞれどのような役割を果たしていくべきかを全体的に見直していく必要があることを、また、民秋氏はビジネスマンの立場から社会人大学院への要望を述べられました。特に民秋氏は、日本企業人の国際的競争力の低下を危惧し、このためには状況を理論的に分析し、適切な戦略を立て問題を解決できる能力、さらに組織でコンセンサスを形成する能力が要求されることを強調しました。
 この後、榎本悟マネジメント専攻長による報告「マネジメント専攻の歩み」に続いて、「社会人向け夜間大学院の現状と将来」をテーマとしたパネルディスカッションが行われました。パネリストは先の鈴木氏と民秋氏に加え、マネジメント専攻教員二名(椿康和教授、ピーター・A・ゴールズベリ教授)、マネジメント専攻社会人大学院生三名(栗栖繁氏、坪倉麻衣子氏、中村均氏)の七名です。(司会:片木晴彦マネジメント専攻教授)。討論は、大学院生によるマネジメント専攻入学の動機と目的およびこれから社会人大学院を目指す人へのメッセージ、教員によるマネジメント専攻の役割に関する意見、そしてフロアからの質問へと続きました。フロアからは多くの熱心な質問が寄せられ、広島大学に先行する筑波大学の経験に関しては鈴木氏、ビジネス界の視点に関しては民秋氏に質問が集中しました。




パネルディスカッション:「社会人向け夜間大学院の現状と将来」
今後への期待

 現在、日本の教育の質的低下が危惧されており、大学教育の役割には大きな見直しが迫られています。その中でマネジメント専攻は地方大学による社会人教育を目的として発足し、全国的にも大きな注目を集めています。子育ての基本は「小さく生んで大きく育てる」と言いますが、マネジメント専攻は初年度募集人員二十八名に対し九十五名の応募があり(うち三十三名が合格)、予想以上に大きく生まれたようです。  榎本教授が報告した社会人大学院生へのアンケート調査によれば、マネジメント専攻に対する評価はおおむね好意的なようですが、目的と現実のギャップ、講義と実践のバランスなどに関して課題が残っているようです。これらの点を発展的に修正していくことによって、マネジメント専攻を地元のみならず、全国的にも大きく意義のあるものに育んでほしいものです。

マネジメント専攻のホームページ 
http://www.mgt.hiroshima-u.ac.jp


 
(広報委員 二村博司)

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