スタートした「フェニックス入学制度」
新たな生涯学習への取り組み
文・ 宮 村 修(Miyamura, Osamu)
平成十一年度教務委員会委員長(理学研究科教授)
広島大学のホームページを開いてみると「広島大学フェニックス入学制度(高齢者を対象にした新しい入学制度)が始まります。詳細は入試情報を!」という案内が目に入ります。この入学制度は学長の諮問を受けて平成十一年度の教務委員会が検討を行い、それに基づいて本学が開始する新しい生涯学習の取り組みです。既にこの制度に従って十月から八名の方が大学院に入学しています。ここではその意義と導入の背景、特徴について簡単に述べることにします。
大学が青年層を中心に高等教育を行い、文化の継承・発展や次世代を担う人材養成に力を注いでいることは言うまでもありません。一方、われわれのまわりでは長寿命化が進み、わが国の六十五歳以上人口の割合は平成十二年には一七%に達しています。このように長い人生を享受できる時代のなかで人々がさらなる知的充実が得られる機会を求めることは極めて自然なことで、これに対応して大学が高度な生涯学習の機会を提供していくことが求められています。これが今回の入学制度導入の背景ですが、さらに高齢者を対象とした入学制度にはつぎのような積極的意義を見い出すことができます。
二十世紀後半のわが国のめざましい発展を支え、企業活動や社会活動の中心となってきた人々が定年期を迎えます。これらの人々の蓄えた専門的・技術的知見や実践的知識、国際経験等は膨大なものがあり、これを学術的にまとめていくことは人々の大いなる知的自己実現になるとともに今後の社会と文化の貴重な資産となります。広島大学では既に公開講座活動、科目等履修生(聴講生)や研究生の受入れ、法学部・経済学部の夜間主コースや各学部の社会人入学等で生涯学習活動に取り組んできていますが、このような理由からさらにその充実を図ることとなりました。この方向性は将来の独立行政法人化に備えて、大学が様々な年代を対象とした高等教育活動を展開していくという方策とも合致しています。
今回の「フェニックス入学制度」は高齢者に焦点を絞った正課型の入学制度(正規の学生や大学院生として修学すること)で、全国的にも他に例を見ないものです。その特徴は学部レベルにおいては、入学者は現行の規定(学部に在籍し卒業要件単位数を満たして学士となる)に従うのですが、小論文や面接試験等によって修学目的や蓄積している知見・体験を尊重した入学選抜を行うとともに、入学後は学内で開講されている豊富な授業科目を利用してそれぞれの修学目的に即した講義・演習等の受講や卒業課題設定を可能にしていること、修学年限の範囲で修学ペースを弾力的にすること等が挙げられます。この制度での入学は正規の学生となるので、通学問題や学費の問題等、高齢者にとってかなりのハードルがあるのですが、既存の科目等履修生や公開講座に比べて体系的で多様な履修と課題研究の十分な深度が保証され、高い知的充実感が得られるものです。また、社会的評価の確定した学士の取得も大きな目標となるでしょう。大学院においては、高度で専門的内容の修得と修士、博士の学位の取得を目指す人々に弾力的なペースでの修学を可能とするとともに、各大学院が指定する研究テーマに参加して研究を進めるプロジェクト参加型の大学院生も募集しています。
以上、概要を述べましたが、この入学制度で入学される方々が広島大学キャンパスに新風をもたらしてくれるとともに、充実した学生・院生生活を送ってくれることを願ってやみません。
広大フォーラム32期4号 目次に戻る