文学部長 田中 逸郎 卒業・修了おめでとう。 文学部は平成九年度に「人間学の回復」という理念のもとに、従来の専門深化した教育組織を改組再編した。文学研究科も更に一歩踏み込んで「人間学の復興」を教育目標に掲げ、平成十三年度から改組再編の見通しである。この理念・目標は、折に触れ述べてきたことで繰り返すのは恐縮だが、今世紀の自然科学及び社会科学偏重の傾向への反省から掲げたものである。学部卒業生は「新」文学部の一期生であり、学部改組再編による新教育の意義を世が問う初めての対象となる。我々人間そのもの、自分自らを見つめ直す姿勢を持って実社会で活躍されるよう念じている。大学院修了生には、旧来の自らの専門分野の研究を追究する事はもちろん大切だが、右に述べた理念・目標の実現へ向けての努力を各人にお願いしたい。 |
文学研究科国史学専攻 谷口 正也 広島大学に入学して、早六年もの歳月が流れようとしている。私が入学した当初は田んぼしかなかった大学の周辺も、今ではすっかり様変わり。居酒屋が何軒も並び立つのを見て疑問に思うときもあるが、「本当に住みやすい場所になったなぁ」と実感している。この六年間広島大学では本当にいろいろなことを学ばせていただいた。それは勉学の面だけでなくサークル活動などを通じての人付き合いの仕方とかアルバイトなどの社会勉強をも含めて。ただ、自分が広島大学に入学した六年前、あるいは大学を卒業して大学院に進学した二年前と比べて、果たしてどれだけ自分が成長したのか、今でもふと疑問に思ってしまうときが結構ある。 そんな時、卒業された先輩と話す機会をもつことができた。聞くところによると、その方もやはり大学を卒業する前には私と同じようなことを考えておられたらしいが、「社会に出たら、自分は成長したんだなぁと思えるときが必ずくる」ということを話してくれた。自分にもいつか先輩のように思える時が必ずくる、と信じながら残りわずかの大学生活を満喫したい。 |
文学部地理学教室 河本 大地 「趣味は何なん?」と聞かれると、いつもこう答える。「地図を持ってあちこち歩くこと!」地図が大好きな私は、随分と旅をした。「好ましいもの」も「好ましくないもの」も、たくさん見た。鉄条網という悪趣味な落書きをされた、朝鮮半島中部の自然景観。インドの二等列車の床で寝た翌朝の車内にたち込める、人間臭さ。研究室に落ちていた地図が頼りのネパールの山村で出会った、子どもたちの人懐っこい笑顔! 東広島の集落は全て自転車でまわった。 こんな経験、一体何になるんだろう。即効性や生産性はない。いや、でも「今日はこれをやった」と言える情報量は確実に得ており、薄れつつも断片的な思い出として蓄積されていく。自分のためでしかない? いや、過疎地域には、若い人と話がしたくて仕方なかったと、抜群の笑顔で話してくださる高齢者が多い。「何になる」のかはよく分からない。 「大地の旅」のよさは結局、様々な景観の中に身を置き、五感でその場所らしさを感じ、多様な人々と出会うことだと思う。それが大地に根付いた旅ではないか。四年間という時間は、その力を育ててくれた。
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