志を高く、大きな夢を

広島大学長 原田 康夫




 皆さん、ご卒業おめでとうございます。二十一世紀幕開けの卒業です。皆さんは二十世紀末を広島大学で過ごし、新世紀に社会に出ていく二十一世紀を背負う人たちです。
 皆さんが、青春を過ごされた時期は、ちょうど広島大学が統合移転を終え、広島大学五十周年記念の多くの事業を行った時期でした。
 日本は、現在バブル後遺症が続く不景気のため、就職も思うにまかせないところがあり、折角、広島大学で身につけられた知識や能力を十分に発揮できず、残念な気持ちでいる人もあるかと思います。
 しかし、社会は常に揺れながら大きく動いています。日本は、戦後の苦難の時期を経て、著しく成長し、見せかけの好景気も経験しました。この間、幸いなことに広島大学は、広島市より東広島市に移転も完了し、日本で一番早く整備された美しいキャンパスを持つ大学になりました。
 現在のような経済の停滞は、いつまでも続くものではありません。これからの変化は、急速なグローバリゼーションとIT革命を伴って否応なしに進んで行くことでしょう。
 昨年十二月、米国のカリフォルニア大学バークレー校やスタンフォード大学を視察してきました。米国は今、バブル期にあたり十八歳人口は増加を続けています。経済は、十数年前の日本を思い起こすような活況を呈し、大学にとっても学生は金の卵であり、学生たちはビル・ゲイツのような企業家を目指し、一人ひとりが新しいビジネスを起こすことを夢見てはつらつとしていました。
 さて、二十世紀を振り返ってみますと、戦争による破壊と科学及び技術のめざましい進歩と、工業化による大量生産・大量消費が進んだ時代といってよいでしょう。その結果、人類の利便性は大いに高まりました。しかし一方で、人口の爆発的増加と資源の浪費に伴う地球環境の汚染、破壊などが地球的規模で進み、このままでは、人類存亡の危機が近づいていると言っても過言ではありません。
 したがって、皆さんは今、新たな世紀に向けてどのように生きるか、また新たな価値観、世界観をもって、人類の平和と幸福に如何に貢献できるかを真剣に考える時にあると思います。
 さて、皆さんが生きる二十一世紀は、情報化により時々刻々の変化が世界規模で起こり、判断を誤れば、大企業といえども一瞬のうちに壊滅的な危機に見舞われかねない状況にあるといってよいでしょう。
 日本でも終身雇用制はすでに崩れかかっており、これからは、まさに個人の力が試される時代と言えます。みなさん一人ひとりが自分でたゆまず努力をすることこそ大切で、いかなる状況にあっても日々努力を怠ってはなりません。それには、これからも持続して学び、目標を追い求めて行く粘り強さこそ大切であります。
 「天才は九九%の努力と一%のひらめき」といわれるように、集中力と持続力こそ物事を解決に導く鍵であるといえます。この集中力と持続力をもって物事にあたり努力するとき、どのような難関に直面してもこれを乗り越え、皆さんの人生を輝くものとするでしょう。二十一世紀は、皆さん一人ひとりの判断力が真に求められる世紀だと思います。とくに、いかに情報が氾濫する時代となろうとも、その中から必要なものを取り出し、的確に分析・判断することによって、それを社会のため、人類のため、地球のために生かすことが問われることになります。そのために、高い知性と鋭い美意識を持ち、豊かな想像力と常にロマンを追い求める人となってほしいと思います。
 さあ皆さん、二十一世紀の扉は開かれました。志を高く、大きな夢をいだき、その実現のために、自信を持って自らの道を歩み出してください。
 私は、皆さんの将来に大きな期待をかけて、広島大学から送り出すことを誇りに思っています。
 御卒業、誠におめでとうございます。




 



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