贈ることば 

広島大学長  原 田 康 夫


 退職者の皆さん、大変長い間御苦労様でした。また、無事御退官まことにおめでとうございます。私も皆さんより少し後になりますが、五月二十日をもって八年間の学長の職をおりさせていただきます。
 私は昭和四十年に医学部講師に採用されて以来、三十五年間広大にお世話になりました。学生の時代から通算すると四十七年になり、人生の大部分を過ごしたことになります。今回退職の方々も人生の大半を広大と共に過ごした方が多く、感慨もひとしおと思われます。
 国家公務員というしばりの中での人生、逸脱もできず毎日平穏な生活のはずが、学園紛争、統合移転という大きな波が押し寄せ、必ずしも静かな毎日でなく、常に改革の名で忙しい日々ではなかったかと思います。
 今、また独立行政法人化という波が押し寄せ、国立大学の方向が不透明な状態になっています。広島大学は、この中で一番早く学内の基盤整備が整った大学です。皆さんは多くの想い出と、ようやく整ったキャンパスを後にされ第二の人生を迎えられます。
 私はこれからが皆さんの本当の人生だと思っています。何をするか何をしようかという意欲を失った人はあまり長生きしません。
 人間は煩悩の塊です。何をしたいと目標を立て、それに邁進する人は長生きするように思います。
 即ち第二の人生は「生きがい」と「健康」です。いつも言っているのですが、退職前に一度全身の健康チェックを病院でしてもらってください。特に大腸ファイバーは日本人の食生活が変わって肉を食べる習慣がつき大腸ガンの多発のため是非必要と思います。
 今はガン発見でも早期なら胃ガン、大腸ガンともに内視鏡手術ができ、成績もよく、開腹しないので体力も落ちません。
 次に「生きがい」ですが、先般の秋の大学院フェニックス入学でも五十七歳から六十九歳の人たちが八人も入学されました。年をとっても知的好奇心は失われません。皆さん意欲満々で入ってこられました。
 私は皆さんより七歳から九歳も年が上ですが、毎日の日課の語学、ゴルフ、ヴァイオリンの練習はこの十五年間欠かしたことはなく、最近はコンピューターの時間も入って、毎日忙しくしています。
 これが健康法で、今でも週に一、二回はおよびがかかり、ステージで歌っています。そのために体調に気をつけ、この二期の学長職の間、風邪で休んだということもありませんでした。
 日頃から規則正しい生活と自らを律する生活と目標に向かって日々情熱をもって精進すると、人間の免疫能力を高め、病気もよりつきません。
 今、私の目標は、昔からやっている平衡器の研究から鳥の帰巣性の原因をつきとめるための研究とヴァイオリンでモーツアルトのソナタ集を全曲マスターすることです。そして、いつかリサイタルを開くという夢をもっています。
 皆さん何でもよいから将来に対する夢をもって生きて下さい。そうすると第二の人生は必ずや明るく楽しいものになると思います。
 どうぞご健康ですばらしい第二の人生に向かって歩んで下さることを祈念してお祝いのことばといたします。
広大フォーラム32期5号 目次に戻る