永らうべきか退くべきか

 稲 田 勝 彦(いなだ かつひこ) 総合科学部英語講座 


〈部局歴〉
  昭和37・4 (香川大学)
   43・4 教養部
   49・6 総合科学部

   
 


 柄にもなく「女性学」なる科目を担当して「女性には進学、就職、結婚、出産など人生において進路選択の機会がいくどかあるが、男性にはこれが定年の時一度しかないのである」などと学生にしゃべってきましたが、自分自身が定年を迎えるに至って、まさにこの初めての「選択」に直面しました。その選択とはもちろん退職後も仕事(と言うよりは勤務)を続けるか否かについてです。国立大学教官として三十九年間、学内外の仕事を人並みに果たすためにはやはり自分が本当にやりたかったことをやらずにきたという思いがあります。ですから正直なところ「今からは勤めないで気ままに研究なり趣味なりに生きたい」という気持ですが、これを妻に言ったところ「では私も専業主婦を定年退職させてもらいます」と言われました。妻に主婦業をやめられると私の生活がどのようなものになるのか想像してみるのは楽しいことではありましたが、やはりその見通しはあまり明るいものとは言えません。かくして、退職後もどこかで「女性には進学……」などとしゃべっていることになりそうです。


2000年夏、イギリスのブリストルにて



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