二つの学長スピーチ

 寺 地   遵(てらじ じゅん) 文学部世界史学講座 


〈部局歴〉
 昭和41・4 文学部

   
 


 一九五七年四月、入学式で森戸辰男学長から「君たち、国家ユウイの人物は、」と切り出されて分からなかった。辞書で「有為」とわかり、世の為に働く人になれという意味かと飲み込んだ。一九八七年一月、学位授与式で沖原豊学長は正月休みに読んだと前置きして、動物学者ローレンツの「優れた知識は好きな先生を通してのみ次世代に伝わる。」という一文を紹介された。これはよく分かった。わが学界は「日本○○学会」のない、極めて敷居の高いところである。その中で一九二九年以来の教室の看板を預かり、全国的声望を保持できたと自負できるのは、板野長八・今堀誠二両碩学の薫陶の賜物としみじみ思う。今は知識を包む人間的何かが変質しつつあるのが心配である。最後に事故・大病で講義・演習に大迷惑をかけなかったことは、私の一番の喜びである。長い間、無理を強いてきた教室の同僚・事務補佐の方々、および家人の御厚誼と支えに深い感謝の意を表したい。  


1994年2月移転出発式(筆者左)



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