自著を語る

『快適睡眠のすすめ』

著者/堀 忠雄
(新書版,244ページ)
700円(本体)
2000年/岩波新書


夜型社会の睡眠短縮

 日本人の睡眠時間は欧米諸国のどこと比べても、三十分から一時間は短いのです。中でも四十代の日本人女性は際だって短く、七時間九分です。いかにも日本人と納得してしまいそうですが、これは最近のことで、もともと日本人が短眠民族だったわけではありません。一九六○年の調査では平日も八時間十三分寝ているのです。九五年ではこれが七時間三十二分ですから、この三十五年間で四十一分も短くなりました。
 起床時刻は朝の六時が三十分遅れて六時三十分になりましたが、就床時刻は夜十時から十一時に一時間後退しました。差し引き三十分の短縮がおこる勘定になりますが、実際はこれよりもずっと深刻な事態であることを示しています。夜更かしは今や幼児にまで及び、幼児の五○%は夜十時過ぎになって床につきます。睡眠をひどく粗末に扱うライフスタイルはそろそろ本気で見直さなければなりません。

新シエスタのすすめ
 我が国では「昼寝」は怠惰の一つと見なされて、大変評判が悪いのですが、高齢者の生活習慣調査をすると、元気で意欲的な人ほど短い昼寝を楽しんでいることが分かりました。実際に睡眠ポリグラフで測定すると、三十分以内の短い仮眠は午後の眠気を取り除き「生活の質」を高めることが確かめられました。夜間睡眠も昼寝をした時の方が深く、まとまりの良いものになることを確かめました。その後、高齢者だけでなく成人層に広く昼寝の効果が認められ、午後の生産性も向上することが確かめられました。そこで社会制度に組み込み可能な「短時間仮眠」として「新シエスタ」を提案しました。
 本書は当初、「新シエスタのすすめ」としたかったのですが、「宵っぱりに朝寝坊」の人が誤って使うとますますとんでもない生活に陥ってしまいます。そこで、まず規則正しい生活習慣を提案してから、昼寝に触れたいということになり、結局のところ「快適睡眠のすすめ」ということになりました。




プロフィール
(ほり・ただお)
☆一九四四年北海道生まれ
☆一九七二年早稲田大学文学研究科博士課程心理学専攻中退
☆一九八五年医学博士(金沢大学)
☆一九九○年広島大学総合科学部教授
☆専門分野:精神生理学・睡眠科学
☆主要著書:『睡眠学ハンドブック』(朝倉書店、一九九四)、『新生理心理学』(北大路書房、一九九七)、睡眠環境学(朝倉書店、一九九九)



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