自著を語る |
エネルギー、新素材、通信技術、交通網、さまざまな面で、二十世紀は、空間と時間の感性を揺さぶる革命の連続であった。その中で、芸術の前衛たちは美的趣味に応えるよりも、新しい環境、新しい物質に真の形を与えることを目指してきた。 異文化の理解には、芸術が最適だ。西欧の文明と文化の受容に芸術は大きな役割を果たしてきた。その反面、自国の芸術を西欧の眼差しでしか評価できない屈折と歪んだ優越感を、私たちは経験してきた。 美術館や博物館は、国家事業として建設された。「観客」が登場し、その観点から、西欧芸術が紹介され、伝統芸術が育成された。その反面、作家の実験的創造的精神が軽視された。スポーツも見るためのイヴェントになりつつある。 本書は、広島芸術学会が一九九六年、第十回大会を記念して全国の美学芸術学の研究者を集めて行ったシンポジウムの報告書でもある。芸術はどこにゆくのか。本書を手引きに、芸術の将来を展望されたし。 本書の構成は次のとおりである。 T 芸術学の歩みと現在 かたちの論理―芸術学の成立(金田)/芸術学の現在(岡林洋・同志社大)/内界と外界―文学の一〇〇年(水島裕雅・広大教育) U 近代日本におけるメディアと観客 観客の登場―新しい観客観の出現(青木孝夫・広大総合)/日本の美術館と観客(菅村亨・広大教育)/日本の近代化とスポーツ観客の誕生(樋口聡・広大教育) V 異文化美術への視線 北斎の位置づけをめぐる闘争―創成期の「日本美術史」をめぐるある挿話(稲賀繁美・国際日文研)/「アフリカ美術」の形成―美術館と博物館の二○世紀(吉田憲司・民族博)/ピクチャレスクの「移植」―英国式庭園から現代へ(安西信一・広大総合)/森村泰昌 変身する自由(圀府寺司・大阪大) |
プロフィール |
(かなた・すすむ) ☆一九三八年大阪府堺市生まれ ☆一九六九年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学 ☆一九六九年広島大学教養部講師 ☆一九八三年同総合科学部教授 ☆二○○○年同退職。広島大学名誉教授。東亜大学教授・総合人間・文化学部長 ☆著書:『絵画美の構造』(勁草書房)、『芸術作品の現象学』(世界書院)ほか ☆専門:比較美学、現象学 |