自著を語る

『放送の自由』

著者/鈴木 秀美
(A5判,328ページ)
9,000円(本体)
2000年/信山社



 施行から五十年を迎えた日本の放送法は、いわゆる多メディア化、放送のデジタル化、通信と放送の融合、さらには放送の国際化など、放送を取り巻く社会環境の大きな変化への対応を迫られている。放送は、印刷メディアと異なり、さまざまな法的規制を受けている。日本ではこれまで、周波数の稀少性と放送の社会的影響力の大きさがその根拠とされてきた。ただし、なぜ放送の自由を規制することが許されるのかという問題について、裁判所の憲法判断が示されたことはない。
 他方、ドイツでは、放送の自由の理念と制度について、判例・学説における豊富な議論の蓄積がある。とくに連邦憲法裁判所が下した一連の「放送判決」は、基本法(憲法)によって保障された放送の自由の理念に依拠して、放送制度のグランド・デザインを提示してきた。ドイツの放送制度は、放送の自由の理念をめぐる憲法論を基礎として形成されているといっても過言ではない。放送の自由をめぐるドイツの憲法論には、日本の憲法論が合憲・違憲の判定に満足し、それ以上の議論に踏み込むことが少ないのとは対照的に、放送制度の合憲・違憲の判定にとどまらず、放送の自由の理念を基準として、より憲法適合的な放送制度を形成しようとする点にその特徴がある。
 そこで本書では、ドイツにおいて放送の自由がどのように理解され、その理解を前提にどのような放送制度が形成されてきたかを具体的に明らかにした。日独の放送制度の相違に注意する必要があるとしても、放送制度のあり方が憲法問題として意識されるようになりつつある日本にとって、ドイツの放送の自由論を参照する意義は十分に認められると考えたからである。本書が、日本における議論の深化に些かでも寄与することができれば幸いである。




プロフィール
(すずき・ひでみ)
☆一九八二年慶応義塾大学法学部卒業
☆一九九八年法学部助教授
☆二〇〇一年法学部教授
☆専攻:憲法・情報法



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