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特別講演会
国際社会における日本の役割

日本国際問題研究所理事長 小和田 恆 氏


文(講演要旨を含む)
永山 博之
(Nagayama, Hiroyuki)
法学部助教授






講演する小和田氏

 二○○一年四月十六日、教育学部大講義室で行われた小和田恆先生の講演会の概要をご紹介します。小和田先生は、国連大使、外務事務次官などを歴任され、職業外交官として重要な役割を果たしてこられました。現在も、日本国際問題研究所理事長などの職務を通じて、なお外交問題に深く関わっておられます。みなさんには、皇太子妃の父君としてもなじみ深いでしょう。


熱心に聴き入る学生及び教職員
 今日は、国際社会における日本の役割という問題を、二十一世紀を迎えた、いまの時代が人間の長い歴史の中で、どのように位置づけられるのかという観点から考えてみようと思います。
 現在の世界は冷戦の終結を機に、大きな転換を経験したと思われています。冷戦の終結は、世界の他の部分から自らを閉ざして社会を運営するという原理そのものが、もはや成り立たなくなっていることの結果です。端的に言えば、社会主義はグローバリズムに敗れたのです。ですから、冷戦の終結はこの大転換の原因ではなく、結果です。これを認識することが、今日の国際社会に向かい合う上で、とても大切なことなのです。
 今、国際社会で起こっている問題は、いずれも従来の枠組みでは非常に解決しにくいことばかりです。地域紛争、核拡散、金融危機、IT、開発、環境、エイズ、麻薬、テロ。問題ははっきりしていますが、問題を解決するための秩序のあり方が、明確になっていないのです。これは、現在の国際社会そのものが問い直されていることを意味します。
 われわれが国際社会と呼んでいる現在の秩序は、たかだか三五○年程度の歴史しかありません。その中核は、国家が他からの干渉を排して決定を行う、主権の概念です。国内社会と国際社会が実態的に切り離されていることが、その前提でした。
 十九世紀の後半あたりから、変化が生じてきました。国家間関係の密度が次第に濃くなっていくと、主権は相対化され、他国との関係を考慮した上で、自国の問題を決めなければならなくなります。国際化とはこのレベルでの変化なのです。
 二十世紀半ば以降は、国際化というレベルを超えて交流が深まります。国と国の関係を前提とせず、企業と企業、個人と個人が直接に国境を越えて結びつくようになってきたのです。この変化がグローバリゼーションですが、これはもはや人為的に押しとどめることのできない、大きな流れです。今日の世界の問題は、この恩恵をできるだけ生かしながら、負の部分を抑えていくという課題への対処に尽きています。
 そこで日本が果たすべき役割もはっきりしてきます。世界政府が存在しない現状では、各国が協力して秩序を作っていかなければならないのですが、日本が積極的にその課題に関わっていくことが必要なのです。そのためには、他国に迷惑をかけない、といういままでの態度では十分ではありません。また、われわれの社会や思考の中にある閉鎖性を克服していかなければなりません。国際社会における日本の役割を問うことはわれわれ自身の思考や行動を問うことに他ならないのです。



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