発明・特許紹介
逆光電子分光装置に関する特許
文・生天目 博文
(Namatame, Hirofumi)
放射光科学研究センター教授
逆光電子分光装置は、物質中の非占有電子状態を測定するための装置です。試料に電子を照射するための電子銃と、試料からの光を検出するための光検出器から構成されます。これまで逆光電子分光実験では、光の強度が低く、高い分解能での測定が難しかったのですが、本特許は、真空紫外域の光を高分解能・高感度で検出できるバンドパス型の光検出器に関するものです。検出器は、イオン結晶の窓、光電面、電子増倍管とパルス計測電子回路から構成されます。イオン結晶は可視域では透明であり、例えば、SrF2では9.6eV付近に励起子による吸収が存在し、これ以上のエネルギーの光に対しては不透明になります。光電面は光を吸収し、光電子を放出する機能をもち、その感度特性は表面に蒸着されている物質の光電子放出特性に依存します。例えば、適当な厚さのKClを銅板に蒸着すると9eV付近から急に光電子を放出するようになります。この光電面とSrF2結晶を組み合わせると、9〜9.5eVの範囲の光だけに感度をもつ検出器ができます。また、CaF2単結晶窓にKClを極薄く蒸着し、KCl薄膜の吸収特性を重ねると帯域幅0.36eVで感度が1.6倍高い検出器を構成できます。励起子の吸収端が温度によってシフトする性質を用いると帯域幅を調整できる機能を提供できます。
以上の発明により、逆光電子分光スペクトルの分解能が格段に向上し、より詳細な電子構造に関する知見を得ることができるようになりました。現在は電子銃の高エネルギー分解能化に取り組んでいるところです。
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