開かれた学問(84)
CANCER PREVENTION
癌予防
文・写真渡辺 敦光
(Watanabe, Hiromitsu)
原爆放射能医学研究所(原医研)
環境変異研究分野教授
現在、癌は、脳血管疾患を抜いて死亡の第一位で国民の関心事になっています。外科手術を行わずに癌の治療ができたら素晴らしいことです。どの様な物質を食べると癌の芽を大きくしないかという学問分野が癌予防です。
癌の原因
癌の原因の三五%は深く食生活に関与し、また、三○%はタバコにあると考えられています。この様に癌の原因の六五%が口から入りますので、「口は癌のもと」と言う学者もいます。
マスコミをにぎわせている機能性食品とか、「癌に効く」と宣伝されている物質の大部分が動物実験等は行われていないのが現状です。動物実験は複雑な代謝の総合的な結果として制癌効果や発癌効果等の多くの情報を一度に得ることができますが、多額のお金と時間が必要です。最近新しい研究班ができ、短期で癌を誘発できるかが検討されています。
現在、日本人に減少している癌は胃癌で、増加している癌は肺、乳腺、大腸、前立腺等の臓器が挙げられます。その原因は食生活の変化と考えられています。
胃癌は胃の中で亜硝酸と魚の中に含まれる二級アミンからニトロソアミンができ、それが原因と考えられています。この発癌物質の生成はビタミンCで抑えられます。胃癌は食塩で増強しますが、動物では発癌物質と一緒に味噌を与えますと胃癌の発生率が減少します。
カロリー
植物性・動物性を含めた総脂肪量を多くとること、また、動物性の飽和脂肪酸の過剰な摂取により、現在増加している癌が起こりやすくなります。ラットでもカロリー制限をすると発癌を遅らせることができます。運動と発癌の関係では、脂肪をとり過ぎでも、よく運動すれば、癌の誘発を抑えることが動物実験で示されています。
野菜・果物・茶
大腸癌、胃癌、食道癌、乳癌など、ほとんどすべての癌に野菜と果物は予防効果があることがわかっています。ただし、前立腺癌には予防効果は無い様です。米国の癌研究財団では、野菜や果物を一日に四○○〜八○○グラム食べることを薦めています。繊維質は特に大腸癌に対して予防効果がありますので意識的にとるように心がけた方が良い様です。アスピリン等の非ステロイド系抗炎症剤は化学発癌で誘発される大腸癌を抑えます。サルノコシカケ、そばタンパク、セリシン、カルシウム等が大腸癌を抑制することが本学の研究で判明しています。
植物性油にはα-トコフェロール(ビタミンE)が含まれています。こういうものは適量をとれば、癌を抑制する作用があります。それを「野菜」という食べ物の形でとれば、とりすぎることはありません。
お茶は乳癌や胃癌発生を抑える物質と考えられています。また、抵抗力を低下させるものに紫外線がありますが、紫外線による作用に対して、紅茶や緑茶が予防効果があるということがわかってきました。しかし、身体がもつ免疫力、抵抗力をつけるには、まず十分に休息をとることが大切です。
「健康日本21」
最近厚生省は「健康日本21」として栄養・食生活面の努力目標値を出しています。この数字はなるほどとうなずけます。即ち、成人の過体重者の減少、脂肪エネルギー比率の減少、食塩摂取量の減少(十三・五グラムより十グラム)、野菜摂取量の増加(二九二グラムより三五○グラム以上)、カルシウムに富む食品摂取量の増加、喫煙対策としては半減にする、となっています。
癌予防のデザイナーフード
現在スーパーで買えるビタミン類、お菓子感覚のカルシウム、ドリンク剤の繊維、等々を組み合わせて、今後の研究で癌予防のデザイナーフードの様な薬を作ることはできるかも知れません。それよりも日本の日常の食事を考え直し、日本食の良いところ、悪いところを指摘することが大切だと思います。癌にかからないための大切なことは子どもの時からの食生活です。そのためには学校給食の献立から考えなおす必要があります。まず始めに食塩を除くことが大切です。魚はたくさん食べますが、動物性の蛋白は少ない方が良い様です。乳製品、野菜や果物が少ないのでこれを補うようにすれば発癌物質が分解されたり吸着されたりします。また、海草や大豆製品を多くとりますので健康には大変良いことです。
あまり塩辛くない日本食を食べ、お茶を飲みながら、ゆったりとした気分で過ごせれば癌の予防に効果的かも知れません。
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