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少しタフな 「読書する」 教養ゼミ報告

文・津賀 一弘
(Tsuga,Kazuhiro)
歯学部附属病院第一補綴科講師



 赤川安正教授(歯学部附属病院長)のご高配で教養ゼミを担当させていただき、「いまどきの新入生」への認識を新たにしました。彼らは本当に優秀で向学心に満ちています。非専門的ですが、学生諸君の知的好奇心を刺激できたように思いますので、ご参考までに概要を報告いたします。

教養的教育改革全学研修会での幸運
 着想は、安浦での全学研修会で得ました。モルテンの民秋史也社長が、「読み、書き、そろばんの能力と、歴史から考え方を学ぶ努力が必須である」と熱弁されました。さらに生和秀敏教授(総合科学部/当時副学長)が、カール・セーガンを輩出したシカゴ大学のプロジェクトを例として、読書の重要性を強調されました。私は偶然、マックス・ウェーバー著『職業としての学問』を持参していました。
 夜の討論会では、班長の末田泰二郎教授(医学部)が各人の意見を尊重されながら温かく進行されました。この雰囲気がよかったので、私は件の岩波文庫を使った「読書する教養ゼミ」の着想を相談しました。「面白い。その本ならいい。でも読んだらまとめさせること。」と応援いただいた阪本昌成教授(法学部)が高校の大先輩と知り、企画に運命を感じました。

不利な時間と費用の逆有効利用
 「精力的な読書を通じて大学生を含む大人の勉強・教養について考える」ゼミは、学習目標を「基礎力の向上…読書力、論理的思考能力、自己表現能力(作文力、口頭発表能力)の強化」として以下の方法でスタートしました。
b受講者全員が課題図書をゼミ当日までに読破し、一五○○字〜二○○○字の内容要約を書く。
b司会、書記を事前に指名し、活発な討論ができるテーマを用意させる。
bゼミでは全員が自分の要約を発表しながら、テーマについて討論する。
b無記名で、準備、参加姿勢、協力度等を相互評価させる。
 学生は東広島キャンパスから霞キャンパスまで、片道一○五○円、九○分の負担があります。私たちのゼミでは、総時間数を変更せずに、一回の講義時間を延長し、隔週開催としました。これによる時間と費用の節約効果は、全員が毎回の課題図書を購入し、端を折りながら、線を引きながら、書き込みをしながら、時間をかけて読むこととなって現れました。

課題図書と選択理由 その一
「読書は楽しい?」

 最初の課題図書は、読書に引き付けることをねらって、スペンサー・ジョンソン著『チーズはどこへ消えた?』を押し付けました。有名企業で利用、と宣伝されるこのベストセラーは、内気な新入生でも活発に討論できる内容でした。
 読書へのバリアが少し低くなった彼らに、大学時代に何を学び、どのような本を読めば良いかを知るたたき台として、鷲田小彌太著『「知」の勉強術』を読ませました。「古典」を読む価値が説かれ、次回からは「温故知新を」の流れができました。
 折から小泉政権誕生で「平成維新」という言葉も耳に。されば「明治維新」を支えた名著を、と提案・協議して第三回は福沢諭吉著『学問のすすめ』。「天は人の上に人を造らず」のその先を、貴方は読まれたことがありますか。今の社会にもよく当てはまり、国際化とは何かを知る良い礎石となりました。

課題図書と選択理由 その二
「私たちは何を読むべきか」

 医学関係の本の希望で、ヒロシマと縁の深いノーマン・カズンズ著『笑いと治癒力(旧題…死の淵からの生還)』を薦めました。ジャーナリズムの巨人が、ハンセン病熊本判決と重なりながら、人間関係を考えさせました。
 その解説中、国立小児病院名誉院長の小林登先生が「カルテシアン哲学」の限界について言及されました。「カルテシアンとは?」に返答なし。それではデカルトを、と少し強引でしたが、『方法序説』を何回も読み返し、要約した成果は将来、Evidence Based Medicineの解釈に影響するでしょう。
 そして最後にベストセラー、五木寛之の『人生の目的』を見送って『職業としての学問』を採ったのは学生たち自身でした。「求められる教養を獲得するにはどちらを読むべきか」選択自体が教育効果と思います。広島大学で学び始めた彼らの「仕事」が何であるかを見失わないワクチンとして本書の記憶が永く残ることを願います。

知的好奇心は刺激されたか
 全員の熟慮と討論の結果で良書を選べたと思います。知的欲求の共感ができ、最後には純粋な向学心が「職業としての学問」に帰結させました。
 ITの奔流にあって古典は灯台です。「光あり」と方向を示し、全員が同時に読み、討論したことが理解を助けました。敷居を少しは低めたと思います。
 要約は、原稿用紙総計三十枚分を書かせて上達したようで、各人の発表を聞くたびに全員が感心し合いました。「ゼミを有意義に活用してよく勉強した」と健全な自己評価が得られました。私自身も学生諸君の真摯な姿勢に感動し、充実感を得ることができました。
 末筆ながら、最後まで仲良く頑張り、成長した九名に敬意を表しますとともに、了解・支援をいただいた関係各位、教室員各位に深謝申し上げます。


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