発明・特許紹介


触らずに柔らかさを調べる方法

文・桜井 直樹
( Sakurai, Naoki )
総合科学部自然環境科学講座教授



 スーパーで買った果物を家で食べると、まだ固かったり、逆に柔らかすぎて味が落ちていたり、なんてことを経験した人は多いハズ。モモは適度に柔らかければおいしいことは誰でも知っているから、つい押してしまう人も多いが、お店の人はツライ。筆者は十年ほど前、クギをトマトに突き刺して、その応力緩和曲線(難しいので解説はしない)からトマトが柔らかくなる時、ヘタの直下から、中心部を通り、お尻からまた外側に向かって柔らかくなることを論文に書いた。ある日、母と一緒に電車に乗っていると、「どんな研究してるの?」と聞くのでその話をすると、「何と言うショウモナイ(大阪弁でつまらないと言う意味)研究しているの。トマトを切っている世界中のお母さんが知っているようなことを難しい言葉で説明しても、イミがない」と言われてしまった。ムチャクチャ腹が立ったが、「よし触らなくてもトマトの柔らかさが分かる装置を作ろう」と固く決心した。そしてできたのが、レーザードップラー法を用いた果実軟化測定装置、である。台の上で果物を数ミクロン震わせ、その振動が果物の上部にどのように伝わるかをレーザー光で、ナノメートル(10-9メートル)単位で測ると、その果物の弾性率と粘性率がたちどころに分かる。最初はスピーカーを果物にあて、その振動をマイクロフォンでとっていたが、これではモモなどを一秒間に三個選果する選果場では使い物にならない。つたない実験結果をポスターで発表していた時、ふらりと通りかかった松下寿電子の人がレーザーのアイディアをくれ、応力緩和の研究をしていた先輩の先生と一緒に研究し、三人で特許を取った。母の一言がなければ、世の中には出ていない特許である。


(画・野崎 悟史)
発明の名称: 果実の熟度および欠陥の測定方法並びに測定装置
発明権者: 広島大学長、学校法人帝塚山学園・松下電子工業株式会社
特許番号: 第3062071号

広大フォーラム33期3号 目次に戻る