PHOTO ESSAY - 60 -

薬草園ラブラブラウォッチング

漢方でいう葛根湯
Kampo Medicine "Kakkon-to"




文・写真神田 博史
(Kohda, Hiroshi)
医学部附属薬用植物園助教授



漢方処方「葛根湯」

(1)葛根
(2)桂皮
(3)甘草
(4)生姜
(5)麻黄
(6)芍薬
(7)大棗

クズ(葛根)
[植物名(生薬名)



マオウ(麻黄)


シャクヤク(芍薬)


シナニッケイ(桂皮)


ショウガ(生姜)


カンゾウ(甘草)


ナツメ(大棗)

 笑っておれない最近の小咄を一つ紹介させて頂く。
 『かぜのひきはじめには葛根湯−葛の根を掘ってきれいに洗い、サイコロ状に切り、日に当てて干しあげる。これが葛の根と書く「葛根(カッコン)」である。これを煎じた状態が良く知られている「葛根湯」だ。発汗作用があるので悪寒がして「かぜかな」という時に煎じて飲むとよい。また、頭が痛い、肩が凝る、二日酔いにも効く。クズ粉は葛根のデンプン質だけを取り出したもので葛根湯は根に含まれている全ての成分を含んでいるのでクズ粉よりいい。飲み方は1日10〜15gを500ccの水に入れ半量になるまで煎じて熱いうちに飲む。』と、ある薬草の本にあった。クズの根を煎じれば葛根湯、一理ある。おかしな箇所は何処にもないような内容だが漢方でいう葛根湯とはちょっと下線部が異なる。
 葛根湯(一日量;g)は葛根(8)麻黄(4)芍薬(3)桂皮(桂枝)(3)生姜(4)甘草(2)大棗(4)の7つの生薬からなる漢方処方で、治療目的は感染症の初期、発熱、悪寒、無汗、頭痛、肩凝り、筋肉痛など。胃腸の弱い虚弱体質の人には使わない。かかったかなと思ったら葛根湯だけでなく、カッコンお肩を叩きましょうも対象になる。二日酔いには葛花を煎じて飲むし、クズ粉よりいいというのも適所である。
 葛根はあたり一面で見られるマメ科クズの根。麻黄は中国の砂漠地域に自生するマオウ科マオウの地上茎、有名なエフェドリンを含んでおり覚醒剤原料にもなる。芍薬は庭に観賞用に植えられるボタン科シャクヤクの根。桂皮(桂枝)は中国南部に自生するクスノキ科シナニッケイの樹皮で勾いや味は京都のお土産「八つ橋」でお馴染み。生姜は八百屋でも売られるショウガ科ショウガの根茎。甘草は中国の砂漠地域に自生し、昔から醤油の甘味に使われているマメ科カンゾウの根。大棗は庭木として馴染みのあるクロウメモドキ科ナツメの果実。身近な物が多いことを意外に思われたであろう。「犬も歩けば薬草に当たる」と言われる所以である。
 漢方における治療方針はバランスをとることが原則であり、葛根と芍薬は筋肉のケイレンを緩解し、麻黄で咳、関節痛を和らげ、桂皮と生姜は冷えた体を温め、大棗と合わせて弱った消化力を補助する。病邪(漢方で言う病気の原因)を叩くばかりではなく、一方で弱っ
た体を労り抵抗力を強める治療が漢方の特徴である。決して、教育論を語っているのではない。
−クズに立ち向かい肩凝りに葛根湯を飲んでいる薬草園の草刈り人−

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