いろいろな物質がもつ磁石の性質(磁性)は、コンピュータに使われている種々の磁気記録媒体(ハードディスク、フロッピーディスク、MO等)として活かされています。その磁気記録の究極は、原子ひとつひとつを区別してその原子のもつ磁石(スピン)の向きを用いて、書き込みや読み取りを行うことです。そのためには、原子スケールでスピンの向きを測る手法を開発することが不可欠で、最近の先端表面計測技術の分野では、走査トンネル顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)の手法を拡張してスピンが測れないか、世界中の研究者がしのぎを削って研究開発を進めています。
この特許は、AFMの測定技術に基づいて原子の間に働く交換相互作用力(電子のもつスピンの向きを反対にすることにより原子間に有効的に働く量子力学的な力)を測定することで原子のもつスピンの向きが測定可能であることを提案したものです。その原理は北海道大学工学部を中心とした共同研究グループの理論研究論文により示され、顕微鏡として構成するために必要な表面評価技術を加えて特許となっています。筆者はそこに共同研究者として参加し、交換相互作用力の大きさが実験的に測定可能であることを筆者の開発した第一原理計算コードを用いて世界で初めて明らかにしました。
ごく最近、この特許で提案された交換相互作用力顕微鏡が北大グループにより世界に先駆け開発され、実際にスピンの向きに依存した表面原子像が得られつつあり、関連学会で注目を集めています。