PHOTO ESSAY -62-
キャンパスの生物




遺伝子組換え植物とカルス
Transgenic Plant and Callus


1:遺伝子導入後、
脱分化を始めたタバコ葉切片
2:脱分化したタバコ細胞 3:再分化し、成長するタバコ


おばけカボチャと筆者ら
(左:田畑和文 右:江坂宗春)


文 写真・田畑 和文 江坂 宗春
(Tabata, Kazufumi)
大学院生物圏科学研究科
生物機能科学専攻博士課程後期3年
(Esaka, Muneharu)
大学院生物圏科学研究科
生物資源開発学専攻教授
 植物の細胞を顕微鏡観察すると、様々な形の細胞が集合して特有の組織を構成しています。これらの細胞は、本来同じ形だったものが「分化」によって姿を変えているのです。「分化」した細胞は一般にその状態で一生を終えますが、面白いことに、植物の細胞は「脱分化」した後、「再分化」することができます。すなわち、「分化」した細胞が「脱分化」して元の「未分化」の状態に戻り、再び異なる組織へと「再分化」できるのです。
 遺伝子組換え植物の作製では「脱分化」と「再分化」能力を利用しています。ここでは、タバコ植物へのアグロバクテリウム法による遺伝子導入技術を紹介します。アグロバクテリウムは植物体に感染する細菌ですが、菌体内のTiプラスミドDNAの一部を植物の染色体に組み込む性質を持っています。このTiプラスミドに目的遺伝子を挿入してアグロバクテリウムを培養し、タバコの葉切片をこの培養液に浸透させて感染させると目的遺伝子が植物の染色体に組み込まれます。そして、感染後、この葉切片を2種類の植物ホルモンを含む培地で培養するとこれらの葉切片の一部が「脱分化」して「未分化」のカルスとなります(写真1)。さらに培養を続けるとこのカルスから根や芽が「再分化」をはじめ(写真2)、やがて一個体となり(写真3)、遺伝子組換え体を得ることができるのです(写真4)。また、花を咲かして種子を得ることもできます(写真5)。
 植物の場合、「脱分化」や「再分化」の制御は植物ホルモンのバランスに依存しており、加える植物ホルモンの濃度を調整することによって、「未分化」のカルスの状態で維持することもできます(写真6)。「未分化」のカルスは、植物個体と比べて生育が早く、また、容易に維持できることから植物細胞の基礎研究において頻繁に利用されています。
 今、私たちは砂漠化や温暖化などの環境問題、爆発的な人口増加に伴う食糧問題に直面しています。そしてこれらを解決することができるのは森林や草木、作物などの植物であると考えています。今後、病害や環境汚染に強く、栄養価の高い植物を作出することができ、その安全性も確認できれば、私たちの未来に新たな可能性をもたらせてくれるのではないでしょうか。
4:野生のタバコ(左)と、
形態が変化した遺伝子組換えタバコ(右)
5:タバコの花芽 6:いろいろな植物のカルス
(左:タバコ 中央:カボチャ 右:シカクマメ)



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