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「小文字」で「地味め」の

「日韓合同学生シンポジウム」



文・川崎 信文(Kawasaki,Nobufumi)法学部政治講座教授

行政学ゼミ代表挨拶
 法学部行政学ゼミは、昨年十一月末から十二月初旬にかけて、韓国研修旅行を実施しました。一九八九年以来、今回で九回目となるこの旅行の主目的は、現地の学生と二〜三日ほど行動を共にして、相互理解を試みようということにあります。
 今回はいつもの相手側、全羅南道羅州市にある東新大学校日本語学科からの申し入れにより、双方から五人ずつのパネラーを配した「二十一世紀・日韓(韓日)関係の真のあり方」と題するシンポジウムに取り組むことになりました。
 ただ、これは「シンポ」と名付けるにはいささか気恥ずかしいほどのものでした。事前の準備も決して十分なものではなく、フロアーも含めて双方が激しくやりあったということもありません。
 それでも、かつて私の下で研究生活を送った金先生、また同僚の韓先生の熱意を受け、双方の教員レベルでの教育上の思惑も合致して、このような催しが実現したということになります。
 昨今の学生の見知らぬ他者へのコミュニケーション能力の乏しさは、つとに指摘されてきたことです。私としては、韓国の学生を相手にその殻に少しでもひびが入れば、という狙いがありました。他方で韓国側には、日本語学科の学生ですから、平素の勉学成果の腕試しという意図も当然あったと思います。
「えーっ、二日酔いの対策は?」
 しかし、私のゼミ生達はこの期待に予想以上に応えてくれました。彼女(彼)らには事前に「ハングル丸飲み」をさせ、挨拶や皮切りの質問に際しては、それを「吐き出す」という形をとりました。これには韓国側の学生も驚きの声を挙げ、きわめて好意的に反応してくれました。
 シンポの本論の部分では、学生の生活費構成や就職活動といったテーマと並んで、当然のことながら、教科書問題も日本軍国主義復活への懸念も韓国側から提起され、日本側も南・北関係、韓国政治における地域対立といった問いを投げかけました。
 しかし、遠来の客への配慮もあったことでしょうが、韓国側の学生がより生き生きとした関心を寄せ、応えてくれたのは、日本側が出したキムチの食習慣、スカート着用(不着用)の効用、お化粧開始の時期、酒席のマナー、あるいは二日酔い克服法といった「軟派」な質問だったように思います。
 実際、今年になって韓国側から届いた礼状によれば、彼女(彼)らは、日本の学生が、彼女らの日常普段の生活に及ぶ関心を持っていてくれたことに新鮮な驚きを表明し、かつ喜んでくれていました。
 私の先輩や友人も、ソウルの大学で類似の行事を実施していると聞いています。このシンポにもう一つの意味があったとすれば、前者のそれとはかなり異なって、やや下世話なテーマでも率直な意見交換が行われたことです。
 いささか手前勝手ですが、こうしたいわば「小文字」の「地味」な交流の積み重ねも大事だと、改めて確信させてくれた研修旅行でした。

光州市内でシンポの打ち上げ



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