発明・特許紹介

軽い水素を軽い黒鉛(鉛筆の芯)で持ち運ぶ


図1(左)    図2(右)
文・折茂 慎一
(Orimo, Shin-ichi)
総合科学部物質科学講座助手

 あらゆる元素の中で最も軽い水素は、燃やしても水(水蒸気)になるだけで、NOx(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)などの有害な物質を出さないことから、将来のクリーンエネルギーの主役として大きな期待がかけられています。
 この水素を持ち運ぶには、従来、たいへん重くて丈夫な金属容器の中に百五十気圧といった高圧をかけて詰め込む方法や、大がかりな装置でマイナス二百六十度の低温にして液体状態にして詰め込む方法が用いられていました。軽い水素を持ち運ぶ方法としては、これらふたつの方法では割に合わず、長年にわたり何らかの解決策が求められていました。
 私達は、この解決策の切り札として、ナノメートル(十億分の一メートル)程度の大きさまで内部を細粒化した(ナノ構造化した)黒鉛を設計しました。この黒鉛の内部に多量の水素を原子状態で詰め込むことで、軽い水素を軽い黒鉛で持ち運ぶことができます。
 ナノ構造化のための方法はいたって簡単で、コップくらいの大きさのバルブ付き容器(図1)に黒鉛と金属球を入れて、回転装置(図2)でグルグルと回転させながらナノ構造をつくるためのエネルギーを与えるだけです(勿論、いろいろノウハウはありますが…)。簡単な方法と、どこにでもある黒鉛(鉛筆の芯)。このコンビネーションが、主役の水素をいっそう引き立ててくれる日も近いかもわかりません。

〈現在特許出願中〉
出願番号:二〇〇〇―一二一七二八
発明の名称:水素貯蔵体とその製造方法
出願人:科学技術振興事業団
発明者:藤井博信、折茂慎一 他四名




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