「♪男と女〜の間には〜、深くて暗い河がある〜♪」と、学生時代のコンパでよく歌ったものです。複雑怪奇で深淵な男女間の違いを表したものですが、巷に溢れる歌謡曲をリストアップしてみても、実に9割以上は“恋”の歌であることに気が付きます。古今東西を問わず、男女の違いとは難解なものであって、語っても語りつくせない魅力があるようです。ただし、生物学的に見ると話は少し違っていて、たとえばヒトの場合、男女の違いはたった1個の遺伝子の違いに行き着きます。たった1個の遺伝子が受精後11日目に働き出すことで、体から脳に至るまで、男の特徴が順繰りに作りだされていくのです。
この遺伝子が乗っているのがY染色体という器です。図1をご覧ください。この染色体は私自身(男)のものですが、小さい方がY染色体、大きいのがX染色体です。ちなみに女の場合、X染色体が2本で、Y染色体は持ちません。私のY染色体は、父方を通して、はるか昔の、男のご先祖様からそのままの形で受け継がれてきたものです。ところがです。すべての動物がこうかというとそうではなくて、実は全く逆のケースがあるのです。今度は図2をご覧ください。これはシマヘビのメスの染色体ですが、大きい方をZ染色体、小さい方をW染色体と呼びます。オスはZ染色体を2本持ちます。このようにヘビの場合、雌雄の違いが、今度はW染色体にある1個のメスを決める遺伝子に行き着くのです。
このヒトとヘビの性の決め方にどのような違いがあるのか、というのが私の主な研究テーマであり、これまで誰もアプローチできなかったテーマでもあります。それを可能にしたのが、図3に示すツチガエルという小型のカエルで、地域によってZW型とXY型に分かれています(図4)。XY型の方が起源ですから、最近になって一方がZW型へ変化したということになります。この変化のしくみを明らかにすることで、動物・植物に普遍的に存在する、2つのタイプの性の決め方の違いを知りたいと考えています。遺伝学実験のアイテムとしての色変わりも、ご覧のようにメンバーがいくつか揃いました。男と女の間に流れる、深くて暗い河の遺伝学的不思議を、いよいよカエルが解いてくれるのです。
http://labs.sci.hiroshima-u.ac.jp/homepage/amphibia/Phenotype.html