特集 広大における 多様性・開放性
2.高校-大学連携から見る




広島県科学実験コンクール
研究施設見学・実習プログラム
水田 啓子 (大学院生物圏科学研究科教授)

【広島県科学実験コンクールの概要】
 高校生の理科に対する興味・関心を高める目的で広島県科学賞委員会が設けられ、広島県立高等学校の生徒を対象に科学実験コンクールが実施されています。昨年度の第二回科学実験コンクールには十三校から百二十九名の応募があり、書類審査を経た四十五名の生徒が、七月十八日(水)広島県立教育センターで開催された実技審査に参加しました。委員長の古川義宏教授(大学院教育学研究科)と委員の鳥越兼治教授(同研究科)および県立高校の先生方による審査が行われ、理科の各分野の課題について、その技能等が特に優れたグループや個人に対して、最優秀賞及び優秀賞が授与されました。生物一名、化学一名、地学一名、物理三名(一グループ)、計六名の最優秀賞を受賞した生徒たちは、それぞれ希望する広島大学の研究施設(生物生産学部、理学部、医学部、ナノデバイス・システム研究センター)において見学・実習を行いました。
(広島県立教育センターの資料にもとづく)

生物生産学部における
金丸君の実習の様子
【生物生産学部で施設見学をした生徒の感想】

研究施設見学・実習プログラムに参加して

金丸 正明 (広島県立西条農業高等学校)
 科学実験コンクールの最優秀賞の特典として、最先端の科学技術ともいえる「酵母染色体DNAを組み込んだプラスミドの大腸菌からの抽出」という実験を生物生産学部で体験させていただきました。実験はもちろん、実験機材もはじめて見る物ばかりで、とまどいを感じましたが、先生や先輩の説明で目的のプラスミドを抽出することができました。私は、この体験実習を通してたくさんのことを学びました。研究方法や実験器具の使用方法を学んだことはもちろんですが、それよりも、丁寧な先生の説明や、同じ研究室でもくもくと実験に励んでおられた大学生や大学院生の先輩方の研究に取り組む姿勢に、研究に対する何か大切な物を学んだと思います。




教科指導研究事業
中尾 佳行 (大学院教育学研究科教授)

視聴覚機器を活用した授業
(広島県立尾道北高等学校学校案内より)
 平成十三年度教科指導研究事業(高校・大学教員共同研究)では、県の教育委員会の支援を得、公立高校(指定校)と本学大学院教育学研究科が連携して、高校の授業改善に当たりました。大学側から見れば、理論研究の臨床の場を得、また高校側からは、体系立った知識・技能を見直し、あるいは最先端研究の情報に触れる場を得ることができ、協力は双方向的であったように思います。平成十三年度は、国語、数学、外国語(英語)の教科が、呉三津田、尾道北、祇園北高校と共同研究しました。私は、尾道北高校(英語科)と「生徒の語彙力を運用レベルにまで高めるための体系的な指導の研究」を行いました。「基本単語の定着が悪い、語の「知識」から「使用」へと高める体系的な指導法が分からない、日本という運用の場が限られる環境で、どう習得の効率を高めたらよいのか」、等々の疑問が出されました。発表語彙に関し使わないと増えないことは、分かっています。どのような問題意識(観点)を持って、どのように使うのがよいか、またどのようにチェック(修正、評価)するのがよいかを協議しました。短期課題として、語彙学習の観点を基に日頃の授業を再構築すること、長期課題としては、語彙リストを作成することを設定しました。語彙習得論の勉強会に加え、高校での研究授業「ライティングにおける発表語彙の指導(ALTとのteam teaching)」、大学での公開授業「語彙学習の方略壕テ記から思考へ」を行い、事前・事後に意見交換しました。先生方からは、経験的な自分の指導をフレームの中で観察できた、と反応がありました。高大連携は今始まったばかりです。




キャンパス公開
櫨木 修 (大学院医歯薬学総合研究科教授)

実習の風景(武田研究室)
 医学部総合薬学科では、平成十一年から八月上旬の一日を利用して、高校生を対象とした体験入学(実習)を実施しています。薬学のように実験実習の比重が高い学部の雰囲気は、模擬講義などでは十分に伝わらないことに配慮した企画です。参加する高校生は数人から十人程度のグループにわかれて薬学科の各研究室の実験室内に入り、教官・大学院生の指導のもとでごく基礎的な実験実習を行います。実習内容はインドメタシンの合成、基礎的な遺伝子操作、摘出臓器に対する医薬品の作用の観察、大気中の環境汚染物質の測定など学科内各研究室の特徴をいかした題材としています。
 例年、広島県のほか山口、愛媛、島根など近県、遠くは和歌山、宮崎県などからも申し込みがあります。安全性や予算(各研究室の負担で実施している)などの関係で一高等学校あたり四名という枠を設けていますが、それでも、募集定員の百名をはるかに上回る応募があります。参加者には極めて好評で、実施後のアンケートの回答を見ますと、高等学校と大学の雰囲気の違いに触れたこと、そこに活動している教官・大学院生とじかに接したことなどが、とくに印象的なようです。  こうした行事は必ずしも広く行われているものではないので、しばしば、学校あたりの人数制限の緩和や、複数回の実施を要望されます。この体験入学(実習)は薬学を紹介するための行事として行っていますが、他学部でも同様の行事が行われることを希望する声も聞いています。比較的少人数を対象とした形式の紹介活動に対する期待と思われます。




広島大学の教育の質
広島大学長 牟田 泰三(Muta, Taizo)

 広島大学における教育は、本学が掲げる教育理念に基づいて行われており、それは社会の期待を反映したものとなっていると考えています。しかるに、近年の急速な社会構造の変化や大学改革の進展の下で、社会のニーズも変化し、大学のシステムも変わってきました。このような状況下で、本学の卒業生に対する社会の期待と、現実に卒業していく学生諸君が本学で学び得たものとの間に、幾分かの隔たりが生じているのではないかという見方も生じています。この点を明確にし、もしそのようなことがあるとすれば、どのように改善したらいいのかを知るために、本学の卒業生に対する社会(産業界、官界、大学院など)のニーズを調査し分析する必要があります。その上で、ニーズに応える卒業生の理想像を描き、それを到達目標とする教育体制を早急に構築すべきです。大学院重点化を含む大学院の整備が完了しようとしているいま、このような考え方に沿って学士課程教育を改善していくことは、極めて重要な意味を持っています。この教育方針は、平成十六年度に予想される国立大学法人化の時点で要求される中期目標の中でも、明確に記述したいと考えています。
 ところで、高大連携企画の一つとして、この四月から、高校生も聴講できる授業を提供しています。私自身も、総合科目「広島大学から世界がみえる」の一コマを担当しました。これまでにも、教養的教育科目をしばしば担当した経験はありますが、やはり、高校生が前のほうに座っている講義は、またそれとは違ったさわやかな雰囲気があって、とても楽しい九十分でした。質問も、高校生からも結構出て、とても新鮮な印象を受けました。講義の後に提出されたアンケートは相当な数でしたが、全部読みました。とてもユニークな意見もあり、今後の講義の参考になりました。  本学の教育の質をより高めるために、私は、いろいろな方策を検討すべきであると考えます。明確な到達目標を掲げ、それに至る道のりを明示したカリキュラムを整備し、目標達成状況をみる教育効果測定を行い、その結果に基づいて必要な改革改善を試みることによって、教育内容の質的向上を図ることが出来ます。このようにして、入学時から卒業時までの教育システムを整備することによって、卒業生の質をより一層高め、社会に対する大学の責務を果たしていきたいと思います。



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