特集 外国人教員による大学比較
China 東北師範大学


アジアにやさしく、
アジアに身近な大学を
文・金 龍哲
( JIN, longzhe )
大学院教育学研究科教育学講座助教授



東北師範大学の正門

 私の母校である東北師範大学(前東北大学)は中国東北の長春市にあります。長春といっても春は決して長くなく、寒くて長い冬が終わったと思ったらすぐ夏がやってくる短春の町です。東北師範大学は十七の学部(系を含む)、約一万人の学生を抱える重点大学ですが、中国では規模の大きい方に入ります。私は一九八二年の二月に当大学を卒業し、同年の十月六日に中国政府派遣留学生(比較教育学専攻)として広島大学にやって来ました。
 広島大学(東千田町)の正門をくぐったのはその翌日のことでした。「質素な正門」というのが広島大学の第一印象でした。中国の大学は大抵、大学と社会との境界を際立てるかのように正門を立派に飾ります。また、八時なのに広大のキャンパスにはまだ学生の姿がほとんどなく静かです。中国では学生寮や官舎がキャンパス内にあるため、日の出と同時にジョギングする人、散歩しながら外国語の朗読をする人が見かけられます。それから広大の閲覧室や図書館はいつ行っても必ず座って勉強できるスペースがあることを素直に喜びました。中国の大学の図書館と閲覧室などは、ほぼ開館と共に満席となります。だから席取りは日課でした。最も驚いたのは、広大のすべての学部に博士課程が置かれているとのことを聞かされた時でした。当時の中国は学位制度を導入し始めたばかりだったし、戦略的にも少数精鋭の学科や実験室に傾斜配分する政策を取り、大学全体の底上げという発想はそもそも非生産的と考えられていました。
研究室にて
 私は、一九八八年三月に博士課程を修了、四月に帰国して中央教育科学研究所(北京)に七年間勤務し、一九九五年度より広島大学に赴任していますが、今、改めてすべての学部に博士課程を持つことの凄みを実感しています。ほぼすべての学問領域をカバーした高度で巨大な教育・研究システムは世界に貢献出来る無尽の可能性を潜んでいるからです。私は広島大学が本気で「世界の大学」を目指すなら、アジアの人材養成と教育の発展に対してセンター的役割を担うアジアの中核大学、「アジアにやさしく、アジアに身近な大学」となることを願っています。そのためには国家的次元での政策もさることながら、意識改革を含めた現場の工夫が重要と考えます。例えば、私費留学生の場合、留学生受入れの可否が指導教官個人の熱意などがなければ決まらない現状を見直し、入学資格の審査、指導教官の斡旋等を一括して取り扱う全学の専門機関を設けるだけでも、より多く、より優秀な留学生の受入れが可能になると思います。


(原文・日本語)


プロフィール
1982年 東北師範大学外国語学部日本言語文学専攻卒業(文学学士)
1985年 広島大学大学院教育学研究科修士課程修了(教育学修士)
1988年 同博士課程修了(教育学博士)
同 年 中央教育科学研究所(北京)副教授
1995年 広島大学教育学部助教授
担当授業:比較教育制度論、比較教育学演習他 (教育学部、大学院教育学研究科)

東北師範大学のホームページ http://www.nenu.edu.cn/



広大フォーラム34期2号 特集目次に戻る / 目次に戻る