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広島大学の社会連携

〜中毒情報ネットワークの全国拠点として〜

大学情報サービス室


 広島大学はその豊富な知的資源を生かして、教育・研究面で大きな成果をあげていますが、社会連携でも重要な役割を果たしています。
 今回は、毒劇物による事件等に対応するために全国の専門家で構成されたネットワークを支える大学院医歯薬学総合研究科法医学研究室の活躍をご紹介します。



中毒関係専門家の連携

 地下鉄サリン事件や毒物カレー事件など、毒劇物を使った犯罪は記憶に新しいところです。このような事件においては、速やかに原因物質を特定し適切に対応することが、犯罪者の検挙や被害の拡大防止のみならず、適切な治療法の採用により被害者の命を救うという点からも極めて重要になります。
 最初から毒劇物の特定がされていることはまずなく、中毒原因物質の分析・特定と適切な対処法の確立が何よりも急がれます。しかしながら無数に存在する可能性の中から中毒原因物質を短期間にかつ専門的に分析することは容易ではなく、専門家同士の連携が重要になってくるのです。

法医学研究室が全国ネットの事務局に

 広島大学の法医学研究室では、一九九四年に全国の中毒に関わる医療関係者や毒劇物分析専門家などが参加した中毒情報ネットワークを構築、その事務局機能を果たすことにより、分析から治療法まで包括的に情報交換する体制づくりに貢献しています。
 一九九九年には、企業の専門技術者も参加した分析支援に特化したネットワークも立ち上げました。また全国の専門家を対象とした毒劇物分析の研修会も定期的に開催しています。
 現在、中毒情報ネットワークには約六百五十名の、分析支援ネットワークには約四百名の専門家が参加しており、ホームページとメーリングリストを活用して、それぞれの専門性を生かした情報交換や相互支援を行っています。また、中毒に関する豊富なデータベースを構築しており、中毒症例や化学物質の詳細な情報などを提供しています。



中毒情報ネットワークのホームページ(登録者限定)
数々の事件で大きな成果

 これらのネットワークの具体的な活用例としては、地下鉄サリン事件では患者を収容した病院の医師がこのネットワークを通じてサリンに対する適切な治療法の情報提供を求めたという事例があります。ネットワークには医師も多く参加しており、沢山の有益な情報が短時間で寄せられました。
 また、青森で発生した毒劇物による事件において、患者体内からのその物質の検出について対応可能な専門家をネットワークを通じて求めたところ、沖縄県の専門家が名乗りを上げ、低温保持の宅配便により検体を青森から沖縄に搬送して精密な分析に成功したという例もあります。

地域でのネットワークづくりも

 このような全国規模のネットワーク拠点としての役割以外に、地元広島地域でのネットワークづくりにも貢献しています。
 毒劇物事件においては、原因物質の特定とともに、刑事捜査のための現場保存や被害者の迅速な救急搬送、二次汚染の防止対策など様々な対応が必要であり、警察、消防機関、救急医療機関、自治体研究所、麻薬取締機関、大学などの密接で迅速な連携が不可欠となります。日頃からの対面での人間関係が重要であり、とっさの動きを決めていきます。このため、法医学研究室では、各機関の関係者による情報交換会を月に一回開催して、人のネットワークづくりをしています。

専門家の力をつなぐ大学の役割

 大学は高度な専門性により教育・研究を通じて社会に貢献するとともに、大学が持つ中立性・信頼性といった特性を生かして、専門家をつなぐネットワークの拠点としての機能も果たしています。社会が高度化・複雑化する中で、このようなコーディネート機能はますます重要になると考えられます。
 広島大学では、教育・研究に加えて「社会連携」を重要な柱として位置付けており、今後一層その充実を図っていきたいと考えています。



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