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「広島大学に法科大学院を!」

産学官連携による広島大学法科大学院創設期成同盟会設立さる

文・平野 敏彦
(HIRANO, Toshihiko)
法学部教授



池内期成同盟会会長の挨拶
 広島大学法学部では、司法制度改革審議会で法科大学院(いわゆる日本型ロー・スクール)の創設の方向が検討され始めて以来、設置に向けての準備活動を進めてきました。一九九九年十二月に最初の公開シンポジウムを開催し、二〇〇〇年四月にロー・スクール設置準備室(現、法科大学院設置準備室)を法学部内に開設して情報収集に努めるとともに広島弁護士会との協議を重ね、同年十二月には弁護士会との共催で公開シンポジウムを行い、暫定的な構想を発表しました。その後、司法制度改革推進本部や中教審などから設置基準等の細部が明らかにされるのに応じて設置構想案の検討・修正を続け、二〇〇二年四月には「広島大学法科大学院設置構想」をまとめ、文部科学省高等教育局に出向いて説明を行いました。この設置構想では、一学年の学生定員が六十人で専任教員が十八人(そのうち九人が実務家教員)という規模の法科大学院を、広島市内の東千田キャンパスに二〇〇四年四月から開設する計画となっています。また、本年四月から弁護士と教員の共同授業を大学院で実施し、具体的な教育方法・教材開発にも着手しています。
 このような法学部による準備作業に加えて、法学部の枠を越えた支援体制も整ってきました。一つは事務局内への法科大学院創設本部事務局の設置に見られる全学的支援体制の確立であり、もう一つは広島県内の産業界・行政関係者・法曹界・報道関係機関等が連携して設立された「広島大学法科大学院創設期成同盟会」の発足です。期成同盟会には、広島県知事や広島市長を始めとする県内の市町村長、商工会議所会頭、各種団体の長や企業経営者、弁護士など二百四十四名(七月十八日現在)が会員に名を連ねており、七月十九日にリーガロイヤルホテル広島で開かれた設立総会にはそのうち百二十四名の出席がありました。
 設立総会では、まず、発起人代表の池内浩一・広島県商工会議所連合会会頭が、中国地域での法的サービス業の増大や広島の都市機能や中枢性の向上のために広島大学に法科大学院を設置する必要性が大きいことを強く訴えられました。次いで阪本昌成・法学部長による設置構想の概要説明の後、規約の制定と役員選出が行われ、会長には発起人代表の池内会頭が選出され、副会長には増田義憲・広島弁護士会会長が指名されました。そして取組方針として、期成同盟会として、文科省や法務省、広島県選出国会議員に設置要望を行っていくことが確認され、八月二十二、二十三日に、池内会長ら七名が上京し、第一回目の要望活動を行いました。最後に牟田学長が、広大を世界トップレベルの特色ある総合研究大学にするためのステップとして法科大学院創設があるという認識に立って、大学の中期目標の中に法科大学院設置を位置づけ、全学的推進体制を作り、一段と強化していくと締めくくられました。

解 説
中央教育審議会答申「法科大学院の設置基準等について」(平成十四年八月五日)

 司法制度改革審議会意見書(二〇〇〇年六月二十一日)は、司法制度改革の要となる新たな法曹養成制度の中核として法曹養成に特化した大学院である「法科大学院」を設けるべきことを宣言し、二〇〇四年四月からの学生受入れ開始をめざして整備すべきものとしました。これをうけて、中央教育審議会は法科大学院の制度設計に取り組み、二〇〇二年八月五日に「法科大学院の設置基準等について」を答申しました。答申の「はじめに」では、法科大学院の創設は、「大学改革及び司法制度改革の歴史の中でも特筆すべき壮挙」だと位置づけられています。この答申のポイントは次のとおりです。

(1)専門職大学院
 法科大学院は「高度で専門的な職業能力を有する人材の養成」を目的とする「専門職学位課程」を置くまったく新しいタイプの大学院です。修了者には新たに設けられる専門職学位としての「法務博士(専門職)」が授与されることになっています。そしてこの法科大学院の修了(標準修業年限は三年)が(新)司法試験の受験資格となります。

(2)修了要件は三年以上の在学と九十三単位以上の修得
 現行大学院のような研究指導や学位論文(修士論文)の提出は不要ですが、単位数も多く設定され、厳格な成績評価と修了認定が行われます。なお、法学既修者の認定を受けた者は修業年限を一年短縮(三十単位の修得免除)することができます。

(3)専任教員の二割以上が実務家教員
 教育内容について、法理論と実務の架橋を強く意識して体系的な教育課程を編成することが求められ、それに応じて教員組織においても、五年以上の実務経験を有する者を専任教員に含めることが不可欠になります。

(4)入学志願者全員が全国統一で実施される「適性試験」を受験した上で、各法科大学院が個別に実施する試験を受験
 入学者選抜では、公平性・開放性・多様性の確保が特に要求されます。個別試験の科目・内容は各法科大学院に委ねられていますが、三年標準型への出願者には法律科目試験は課されません。

(5)ファカルティ・ディベロップメントの義務づけ
 教育水準と教員の質を確保するために、学生による授業評価や教員相互の評価(ピアレビュー)、各種の研修の実施が必要とされています。

(6)教育活動等の状況についての自己点検・評価の結果の公表の義務づけと継続的な第三者評価機関による適格認定

 以上のような新構想の制度的枠組みの中で創設されるべき法科大学院は、まさに答申の言葉をそのまま借りると、「今後の大学改革の行方を展望する上でも重要な試金石」ということができるでしょう。答申の全文は次のホームページをご覧ください。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/020803.htm



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