学生企画のページ

未来にはばたけ!
鳥人間コンテストチーム HUES(ヒューズ)



工学部船型試験水槽棟にて
連日深夜あるいは明け方まで作業が続いた。

 手作りの人力飛行機で飛行距離を競う「鳥人間コンテスト選手権大会」。毎年琵琶湖で開催されるこの大会の「人力プロペラ機部門」に、今年広島大学からあるチームが初参加しました。その名は「HUES(ヒューズ)」。Hiroshima University Engineering Systems の略で、英語では「色彩」の意味だそうです。去年までは人力ボートの大会に参加し、七年連続で学生優勝していたそうですが、八連覇は狙わず、今年はあえて「空を飛ぶ」大会に参加されたHUESのみなさんに大会数日前、お話を伺ってきました。

 ―飛行機にチャレンジした経緯は?
小池 これまで七年間ボートで培った経験をもとに、大学からの参加がより多い鳥人間コンテストに参戦して自分達の設計・製作技術を試してみようということになり、二年前から卒論等で準備を進めて来ました。私自身も二年前の卒論で大会の事前調査と空力・構造解析を担当しました。昨年後輩が行った卒論では、実験による空力性能の検証も行い、それをもとに基本設計を行って今年二月末の書類選考へ応募したのです。四月下旬、競争率二・五倍の難関を突破してみごと一発合格。七月の大会へ向けて実機製作を行うことになりました。

 ―ボートと飛行機の違いって何でしょう。
田中 基本的には一緒ですね。ボートと言ってもこれまで私達が製作してきたものは水中翼艇でしたから、翼の揚力によって浮かぶという原理自体一緒だし、最低限必要な強度を保ちつつ極限の軽量化を行うという設計コンセプトも一緒です。
小池 軽量化が重要なポイントですから使用する材料も大体一緒です。ただ、飛行機は主翼幅が二十四メートルにもなるので大きさという観点からするとボートよりも製作や製作後の試験が大変です。試験飛行する場所の確保とそこまでの運搬だけでも一仕事なんです。それと物が大きいから製作費も高額です。安易に製作ミスはできません。とは言え既に大分作り直しちゃいましたけど(笑)。あえて違いを言えば、力学的に面白いのは(水中翼型)ボート、製作上面白いのは飛行機となるでしょうか。面白いということは難しいということです。




取材時に作業をしていたメンバー。
工学研究科、工学部だけでなく法学部の学生も。

リーダーの小池かおりさん(大学院工学研究科博士課程前期2年)。2年前から卒業研究テーマ(「人力飛行機の性能 解析と試設計」)として準備を開始し、3年目の今年、「鳥人間コンテスト」へ参戦。

リーダーとともにチームの中心的役割を果たす田中聡嗣さん(大学院工学研究科博士課程前期2年)。


 HUESのメンバーは全部で二十五人!この大所帯をまとめているリーダーが、先ほどからお話を聞いている小池かおりさんです。「二十五人の名前を覚えるのが大変だった」という彼女に、HUESについて、鳥人間コンテストの魅力について聞いてみました。

 ―HUESは「サークル活動」になるんですか?
小池 製作自体は工学部を中心に興味がある人達が集まってやっているのでサークル活動的な側面があるかもしれませんが、設計や事後解析部分は研究とリンクしていますから一般のサークル活動とは大分違いますね。課題を発掘して探求し、成果をまとめないと卒論・修論が書けないという現実的なプレッシャーがあります。そんな私達をM先生は「飛行機は翼に働く圧力(プレッシャー)差で飛ぶんだからプレッシャーは必要不可欠」と励まして?下さいますが(笑)。

 ―メンバーは仲がいいんですか?
小池 工学部の機械系を中心として他学部の学生も入ってやっているので価値観は多様なようです。でも基本的に「ものづくり」が好きな人が集まっているので、自然とみんな仲良くできますね。

 ―鳥人間コンテストでの目標や飛行機作りの魅力って?
小池 大会へ出る以上、これはレースですから最終的には最長飛行距離を!というのが目標でしょうね。でも、他大学の同志と技術競争をし、またそれを通じて交流を行うということの方が自分達の将来にとってはより貴重な経験となるでしょうから、それが真の狙いと言えるかもしれません。飛行機作りの魅力は、何と言っても皆で力を合わせて作り上げて、形が出来上がった時の感動、そうした「ものづくり」をしている感動を皆で共有し合えることですかね。製作は本当に大変ですけど。


早朝5時から作業をはじめ、6時間。ようやく完成。
砂の上に敷いたベニヤ板が滑走路となる。

試験飛行のため、船型試験水槽棟から
南グランドへ各パーツを運び、組み立てていく。


 「ものづくり」が大好きなみなさんの自慢の飛行機について聞いてみました。

 ―皆さんの機体の特徴は?
田中 私達のような新参者が鳥人間コンテストの書類選考にパスするためには、通常の機体、つまり一番良く飛ぶことが分かりきっているオーソドックスな機体形状で応募しても書類選考に合格しないんです。主催がテレビ局ですから番組の視聴率が第一で、そのためユニークな機体形状が要求されます。この事情からうちのチームは双胴双発機(胴体が二本、プロペラが二機)で応募した訳です。通常の機体と比べると駆動部が複雑になり重量面からも空力面からも不利な点ばかりなのですが、そうしたより難しい設計命題に挑む面白さが逆に良いのです。「やりがい」とでも言いますか…(笑)。こうした理由から他大学の飛行機と比べると必然的にメカニカルな部分が非常に多く、この点が自慢となりますかね。それに双発機がうまく飛べたときの優雅さ・雄大さは単発機の段ではないはず。

 ―今までで大失敗とかはありますか?
小池 主翼表面にフィルムを貼るのですが、この貼り方が非常に難しくて何度もやり直しました。充分に二機分の翼を作った計算になるかと思います。
都築 コックピットを含むフレームも作り直しました。設計よりも機体の重心位置が後ろに来てしまったためです。重心位置は製作法に大きく依存するので、なかなか計算通りには行かないんです。失敗と言えばそれが一番の失敗ですかね。

 ―最後に一言。
小池 他大学は一年かけて製作するところを、私達はわずか二か月で製作しました。過去のボート製作で培った製作ノウハウがあったからできたのだと思います。あとは良い結果が出せるよう最善を尽くすのみです。これまでご支援下さった方々に厚く御礼申し上げます。「頑張って来ます!」




 去る八月三十一日に、鳥人間コンテストの模様がテレビで放送されました。我らがHUESは、残念ながら助走時にプロペラを床にぶつけたため十六・六二メートルの記録に終わってしまいました。ですが、空に向かって大きな一歩を踏み出したのは事実。十月初めには今回の結果の報告・反省会も行われるそうです。来年の活躍に期待して応援を続けていきましょう。

インタビュー
 畠山大志(大学院理学研究科一年)
 上岡紗野香(総合科学部一年)




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