『分子生物学講義中継(part1)』

大学院医歯薬学総合研究科教授
井出 利憲

羊土社/2002年/3,800円

 既刊の分子生物学教科書とは異質の本の発刊には理由があります。生物学を学んでこなかった理系の学生が多く、生物学を意識した分子生物学の教科書が少なく、生き生きした臨場感ある教科書が欲しかった。また、生物学の知の継承・知の創造への教育には、事実の切り売りではなく、事実を評価し事実の意味するところを考え、事実の背景から体系的に理解し、学問的な感動を伝える、教養的専門教育が必要です。五月に初版を発刊し、六月に第二刷り八月に第三刷りが出ました。読者の感想「暗記ものでない生物学・分子生物学の教科書は初めて」は期待した反応。京大の某先生の「広島大学にはこのように素晴らしい講義があると全国に宣伝する効果あり」、東大の某先生の「教授が読んでも手後れでない本」は目論み通りの反応。筑波大の某先生の「落語のように面白い」は、「落語より」のはず。爆発的売行きは望外でしたが、同憂の士が全国にいることがよく分りました。




『人間理解のコモンセンス』

総合科学部
上領 達之・高谷 紀夫・

岩永  誠・加藤  徹・ 中坂恵美子
共編

          培風館/2002年/2,700円

 本書は、パッケージ別科目の副読本である「二十一世紀の教養シリーズ」第三弾として企画されたもので、「人間性の理解」と「人間と文化」のパッケージ担当者を中心とした二十名の研究者の目を通して「人間とは何か」を問い直した教養書です。本書は、「人間とは」、「自分の受容」、「他者との軋轢」、「これからの人間」の四部から構成されており、人間を理解する上での基本的な視座の提供を目指しています。しかし、「人間とは何か」という問いは、人間の歴史とともにあり、かついまだ納得できる答えの出ていない普遍的な問いでもあります。本書で取り上げた話題も、「人間とは何か」を考えるための一側面を示しただけにすぎませんが、参加した執筆者は自分の専門の枠を越えた新たなる人間像を描き上げようと試み、新たな問いかけをしています。本書が、人間や自己存在について考えるための知的枠組みを提供するきっかけになればと願っています。
(総合科学部助教授 岩永 誠)




『Capital and Labour in Japan』

経済学部教授
瀧  敦弘 ほか著

Routledge/2000年/55ポンド

 経済状況が多少変化しても、経済システムはそれに柔軟に対応できれば問題はありません。本書は、日本経済や日本企業の仕組み・制度が、資本市場および労働市場の双方に対して補完的に対応することで、経済ショックを柔軟に吸収するメカニズムをもっている(過去形で「いた」とすべきという議論もありますが)ことを、理論的・実証的に示したものです。しかし、ご承知のように、昨今の経済状況においては、日本企業のシステムについてあまり良い評価が与えられていません。これは、現状が企業システムの安定性を揺るがすような持続的な変化の過程にあると解釈できるように思います。そのような安定性についての議論を最終章で述べたのですが、今、読みかえしてみると、不十分である感をいなめません。さらに日本経済や日本企業システムそのものの変化についても研究が必要でしょう。現状の変化がある程度落ち着いた時点で、さらに、もっと高い視点から、経済システムへの研究をしなければと思っています。




『麗しき日本復活へのメス』

広島大学名誉教授
松浦雄一郎

かまくら春秋社/2002年/1,300円

 時代とともに人間は、社会は進化的変革を問われることは世の定めと愚者は捉えています。一方、誰のかけ声かは定かではないものの国をはじめ市町村、さらには私たちの大学にまで改革、それもどきの波が押し寄せています。国破れた直後の昭和時代の、類希な復興から発展へと繋いだ戦前に育てられた学識者、指導者らの偉績が、今の人らは間違っていたというのでしょうか。もし、今が教育を含め、有史以来最低の状況にあり改革をというならば、大東亜戦争(第二次世界大戦)直後というよりは、ここ最近の学識者、指導者らの心軽視、物重視の理念が改革を必要とする世の中としてしまったと思われるのです。以上のような思いから、今の家庭が、初等教育が、高等教育が、医学部が、附属病院が、社会が危ないと感じるところを日頃書き留めていました拙文をかき集め上梓することとしました。本書は、筆者の偏った日本改造ならぬ日本復元に関わる一考察であり、問題提起と考えています。


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