特集 II 企業から見た広島大学 


2.広大と共同研究を行っている企業から



産学協同プロジェクトにおける経験と広島大学への期待
文・粟屋 信義
( AWAYA, Nobuyoshi )
シャープ株式会社IC事業本部プロセス開発センター



 九九年から半導体理工学研究センター(STARC)のプロジェクトで新宮原先生(大学院先端物質科学研究科)の研究グループに客員研究員として参画し広島大学とお付き合いさせていただいています。STARCは国内半導体メーカーが出資してできたコンソーシアムです。同組織の主要活動の一つとして大学の研究成果を半導体業界に役立てるプロジェクトがあり、選抜された大学からの応募テーマを、期間内に所期の目標を達成し、業界の研究開発に役にたてることを目的として活動しています。私が参画しているテーマでは、新宮原先生をまとめ役に高萩先生、吉川先生が加わり、業界からは三菱、松下、富士通に弊社を含めた四社から客員研究員が参加し、定期的に開催される会議で、研究成果に、産業界の要望を反映していただく様進めています。テーマは半導体の配線プロセス技術に関するもので、配線材料の成膜、層間絶縁膜の信頼性評価、新材料探索のためのシミュレーションの研究を行っています。会議は、大学と企業の真剣勝負の場で、テーマの進捗、有用性について遠慮の無い議論が戦わされます。プロジェクト最後の年である今年末には、多くの具体的な成果が出せると確信しています。IT分野における商品ライフサイクルは著しく短縮しており、主要部品である半導体の開発も厳しい短期化が要求されています。米国は産業構造の変化にいち早く対応し、明確な目的をもった基礎研究を大学が担い、半導体産業における日米再逆転に成功しました。現在日本の大学も大きく変わろうとしていますが、広島大学は、人材、設備ともに世界の競争に参加できるリーダー的大学の一つと思います。米国の復活の全ての仕組みは、八十年代のどん底の中で生まれました。このことは、変革のための知恵が無ければ生き残れない時期こそ技術者にとって最も面白い場であることを示しています。地理的に近いこともあり弊社半導体部門では、広島大学出身の多くの技術者が中核的存在として活躍しています。今後さらに共同研究を通じ野心的で面白い仕事をさせていただきたいと存じます。



オリジナリティーと実用性の高い研究を期待
文・田中 敏嗣
( TANAKA, Satoshi )
太平洋セメント株式会社中央研究所



 現在当研究所では、広島大学大学院工学研究科社会環境システム専攻の先生方といくつかの共同研究を実施しています。内容は、いずれも新規に開発したセメント・コンクリート材料に関する特性の解明と評価、利用技術の検討などが中心となっています。民間企業が大学と共同研究を行う大きな理由として、高い専門性と豊かな経験を持つ先生方のご指導を頂きながら、研究開発を効率的に進めることが挙げられると思います。また材料メーカーとしては、学会・業界での新材料の認知の支援も先生方に期待します。広島大学に共同研究をお願いすることになったのは、当研究所の研究開発テーマに関して、適切な指導の期待できる先生がいらっしゃったからです。広島大学には力のある先生が多くいらっしゃるので、他の分野でも同様ではないかと推察しております。
 以上のように、これまでは民間企業から大学に共同研究をお願いすることが一般的だったと思います。一方、最近大学発のベンチャー等が叫ばれていますが、国立大学法人化等により今後は、大学が自らの研究成果や特許を活用し、大学から仕掛けることが一層増えてくるのではないかと思います。いずれにしても、優れた研究成果は、新たな技術・製品を生み出し、企業や産業界の活力・発展につながると考えます。今後とも、広島大学が共同研究や技術開発のパートナーとなるよう、広島大学の伝統や個性を活かし、専門分野におけるオリジナリティーのある優れた研究成果のみならず、民間企業のニーズにマッチする実用性の高い研究も期待しております。



地元企業と広島大学のつながり
文・橋本 邦彦
( HASHIMOTO, Kunihiko )
西川ゴム工業株式会社



 当社は広島市に本社を構え、広島県下に四つの工場を配した、典型的な地場企業です。自動車ドア周りのゴムシール材を主力製品とし、国内の全自動車メーカーへ納入し、長年この製品のトップシェアーを維持しています。社員には広島大学の卒業生がたくさんおり、とくに技術系の社員に限れば他大学を圧倒した割合になっています。
 このため広島大学とのつながりは強く、これまでもネック技術の解決のための相談や、新規開発テーマの入手、産官学交流などで、大いにお世話になっています。広島大学との産学共同研究も、工学部を中心にここ数年、年間四〜五件を実施しています。
 広島大学が中四国地区で中核的な高等教育・研究機関であることは、自明のことです。今後、国立大学法人化やトップ30などの環境変化があろうとも、現在の位置づけは不変と考えられます。その中で、人材の供給も全国区、あるいはグローバル化を考慮すれば世界的に広く行われるべきで、研究成果も世界的に注目されるものが輩出するものと期待されます。しかしながら地元企業の視点でみれば、人材の供給を地元に継続的に行って戴き、それとセットで研究成果も地元に還元して戴けることを望んでいます。
 広島大学と地元企業を結びつけるものとして、「広島大学地域共同研究センター」、「研究成果活用プラザ広島」、大型プロジェクトや知的クラスターの受け入れ機関としての「(財)広島県産業技術振興機構」などが、大学周辺に整備されています。確かに、中四国地区は重厚長大産業に偏重しており、バイオテクノロジーなどの先端的なテーマにおいては、産学共同に対する地元企業の姿勢に不十分な面もあるかも知れません。しかしこの地方を元気にし、将来に渡って活力を維持するために、前述の機関を大いに活用させて戴き、新規事業が雨後の竹の子のように生まれてくることを期待しています。



研究都市の中核として
文・三井 直子
( MITSUI, Naoko )
東和科学株式会社



 昨年度から、総合科学部の河原研究室で、環境ホルモンのスクリーニング試験に関する共同研究を行っています。
 当社は、広島に本社をもち、環境分析・調査設計を主たる業務とする会社ですが、近年はバイオ技術を応用した環境関連事業の展開にも力を注いでおり、この部門の研究施設は東広島のサイエンスパーク内に集結しています。このような新規事業を推進する当社にとって、長年にわたる研究の蓄積と先端技術を保有する総合大学が身近にあることは幸運なことであり、非常に心強い味方と言えます。また、東広島市は、サイエンスパークをはじめ数々の研究施設の充実とともに、研究都市としての発展が目覚ましく、広島大学には、知の発信基地として、その中核を担うことが期待されています。
 国立大学法人化の動きが進む中で、産学連携が求められる時代となってきましたが、広島大学と企業との共同研究や、これらの研究活動に基づいたベンチャー企業の創立など、地域に根ざした連携を通して、国内のみならず、世界に情報発信できる可能性を大いに感じます。
 一方で、共同研究を通じて感じることは、企業と大学との役割分担を明確にする必要があるということです。企業が大学に対し過度に干渉したり、あるいは大学が企業化すれば、大学本来の学術研究の領域を制限してしまうことになりかねず、長い目で見れば、基礎研究が衰退する事態にもなりかねません。このような事態は、大学にとっても、企業にとっても、大きな損失になります。  純然たる学術研究と、産業へつながる応用研究とのバランスを保つための仕組みを産学間で確立することが、今、求められているのではないでしょうか。


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