開かれた学問

開	か	れ	た
学	問	(92)

　非営利組織論の成長と展望　

文・日下部　眞一
（KUSAKABE, Shinichi）
総合科学部自然環境研究講座助教授

　今、静かに世界的な市民社会の動きがおこりつつあります。ＮＰＯとか
ＮＧＯとよばれる組織の動きがメディアの注目を引いています。このような現代的課題はどのように教育・研究されているのでしょうか。

世界的な連帯革命
　非営利組織（ＮＰＯ）とは、関係者で営利配分をしないという制約をもつ組織で社会的・公共的なサービス活動に関わっています。非政府組織（ＮＧＯ）も、政府ではないという点を強調していますが組織としては非営利組織
（ＮＰＯ）と同じといえます。ジョンズ・ホプキンス大学を中心とした世界22カ国の調査では、このような非営利組織が平均すると各国ＧＤＰの約五％をしめる経済活動を行っていることがわかってきていますので、かなり大きな経済主体です。

非営利組織論の位置づけ

　じつは、このような非営利組織が20世紀末から世界的に非常に大きく成長し「世界的な連帯革命」とか、国民国家体制の弱体化を補完する「グローバルな市民社会の台頭」といわれ、21世紀民主主義の活性化の期待を担っています。
　日本でも、阪神・淡路大震災で「ボランティア元年」と呼ばれたように、自らの組織を創って社会公共サービスを提供していこうとする多くの市民活動団体が成長し始め、これらの団体・組織に法人格を認める法制度として「特定非営利活動促進法」（ＮＰＯ法）が1997年に制定されました。ＮＰＯ法人認証数は着実に伸び続けており、今年末には全国で一万団体をこえるでしょう。これらのＮＰＯ法人の多くは予算規模も小さい草の根ＮＰＯとしか呼べないような市民活動団体ですが、21世紀日本社会の将来は、このようなＮＰＯ部門の成長いかんにかかっているようです。

非営利組織についての教育・研究の展開

学会誌"ノンプロフィットレビュー"

　このようなＮＰＯについての教育・研究・実践に携わる学会が1999年3月設立されました。三年目を迎えた今年春の明治大学における学会では個人会員数が1400名を越える程にまで成長し、早くも日本学術会議の学術研究団体として正式登録されました。会員は経済学、経営学、政策研究、社会学、福祉など多岐な分野にわたっており、人文・社会科学のみならず自然科学分野の研究者も多く参加しています。20世紀の縦割りの学会にたいしてＮＰＯを中心として横につなぐ役割も担っています。
　目下の課題は、成長している国内ＮＰＯ団体の経済規模や活動状況についての実体把握、そして多様多岐なＮＰＯがどのような要因によって成長しているのか経済社会的分析が重要です。また、政府・民間企業部門との競合・協働のありかた等についての実体把握と解析評価が必要です。そしてＮＰＯ部門に携わる学生および社会人の人材育成とマネジメントについての教育・研究も重要な課題です。
　これらの非営利組織の多くは従来任意団体や市民活動団体と呼ばれていたような組織で、地域の様々な社会的公共的課題解決に積極的に関わっています。アメリカ社会では大学と地域のＮＰＯが協働して学生のインターンシップを教育実践し、疲弊した地域の活性化にも大きく貢献しています。今日、大学と地域の連携が呼びかけられ始めたわたしたち日本社会にとってアメリカのＮＰＯ教育実践、そしてＮＰＯインターンシップには大いに学ぶところがあります。

国際NPO学会アジア大会(2001年大阪)

　ＮＰＯには、まちづくりや社会教育から国際協力、医療福祉、環境保全などありとあらゆる多様な活動を行う組織があるので、教育・実践・研究ではさまざまな学問分野が交差しポリフォニック（多音和声的）な響きをかなでるという、まさにインターディシプリナリー（共際的）な、ある場合にはトランスディシプリナリー（超際的）な印象をいだかさせられます。現代社会の様々なわたしたちの公共的課題に対してグローカル（グローバル（世界的）かつローカル（地域的））な視点からの批判的知性、さまざまな知の交差というまさに総合科学に値する新しい学問領域が生まれ始めています。

「産業構造審議会ＮＰＯ部会中間とりまとめ『新しい公益』の実現に向けて」
http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/index.html
日本ＮＰＯ学会（ＪＡＮＰＯＲＡ）
http://www.osipp.osaka-u.ac.jp/janpora/index.html
国際ＮＰＯ学会（ＩＳＴＲ）
http://www.jhu.edu/~istr/

プロフィール
1977年 1982年 1989年専門分野：	京都大学大学院農学研究科修士課程九州大学大学院理学研究科博士課程広島大学総合科学部助教授遺伝学、進化遺伝学、非営利組織論。日本NPO学会理事

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