PHOTO ESSAY -66-  華麗な舞の秘密




交尾中のカバマダラ(雄はフェロモンをだして雌を誘う)

幼虫時代に蓄えた有毒物質を体内に持つことで知られるジャコウアゲハ

赤い臭角と悪臭をだして天敵を撃退するシロオビアゲハの幼虫

ブレンドした人工の花の香りに引き寄せられて色紙で吸密行動を行うモンシロチョウ

ノル植物成分を含ませた紙に反応して産卵するギフチョウ(前脚の味覚感覚器で化学成分を感知する)
チョウの生活と科学情報
The lives of butterflies guided by chemical information

文/写真・本田 計一

(HONDA, Keiichi)
総合科学部
自然環境研究講座教授

 「チョウ」は巷では普通「チョウチョ」と呼ばれ、忌み嫌われる虫が多い中では比較的なじみのある昆虫だと思いますが、残念ながら学問分野においては昔は余り相手にされていませんでした。これには色々な理由がありますが、一つには毒にも薬にもならないその存在は研究のインセンティブを喚起しなかった、ということでしょうか。また一方で、花から花へと飛び回る姿から、社会的通念ではしばしば軽薄なものの象徴にもされがちです。同様の事情は西欧にもあったようですが、擬態の研究で有名なベーツが遙か昔(19世紀後半)にその著"A Naturalist on the River Amazon"でいみじくもこう指摘したように−The study of butterflies - creatures selected as the types of airiness and frivolity - instead of being despised, will some day be valued as one of the most important branches of biological science−、チョウはその形態や行動・生理様式の多様性から、今や生き物の進化や種分化過程を探るための格好の研究材料として、生態学、(神経)生理学、生化学、分子生物学など多面的な観点から多くの研究が行われています。
 さて、一見無関係とも思える「チョウ」と「化学情報」にはどのような関連があるのでしょうか? チョウに限らず、昆虫類は外部環境からの情報収集の際に視覚以外にも化学感覚(嗅覚、味覚)をよく利用しています。目に見えない化学物質を情報源として合目的的な行動を行うため、しばしば「超能力」と評されたりもしますが、彼らの生活に?やまかん?は少なく、そのライフスタイルは確かな情報に基づいたすこぶる堅実なものです。彼らは進化の過程で、信頼に足る一つの情報として「化学物質」を選んだのでしょう。このことは、母チョウの産卵や幼虫の摂食、異性の認知、訪花、防衛などの行動において、彼ら自身が発信する化学物質、あるいは植物などから受容する化学物質が多数知られていることからも明らかです。そうして、このような分子情報を今度は私たちが系統的に解析することによって、2〜3千万年に亘る彼らの進化ドラマをかいま見ることができるのでは、と期待しています。

研究室ホームページ: http://home.hiroshima-u.ac.jp/honce/index.html


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