「広大」という名前を聞いた時、みなさんは一番先に何を思い浮かべますか。人により様々なイメージがあることでしょう。「UI」とはこのような大学のアイデンティティを確認し、再検討する作業を一括する言葉として用いられています。広大では本年 5 月に他の国立大学に先駆けてUI戦略検討チームが設置され、作業が進行中ですが、一般にはまだ「UI」という考え方がよく知られていないようです。今回の特集では、まず最初に検討チームリーダーの椿・学長補佐に全般的なお話をうかがい、いくつかの例(企業・私立大学、アメリカの大学)を見、最後に、縦軸と横軸から広大のアイデンティティの現況を検証して、「UIとは何か」を探ってみます。


 ―椿先生は全学のUI戦略検討チームのリーダーをなさっておられますが、最初にUIとはどういうものか、議論をする場合に共有しておくべき最小限の認識を教えてください。

 UIとは、まず「広島大学とは何もので、何のために存在しているのか」という自身の個性や存在意義を問い直して、「これからどうありたいと願うのか」という理念を整理・再編することです。そして、それらを体現するメッセージやシンボルを統一的に使って、広島大学の新しいブランドイメージを確立していくことです。
 UIのねらいを別の形で表すと、「広島大学とその教職員・学生の活動に関心をもち、共感し、応援し、共に活動する人々を増やしていくこと」、とでもなるでしょう。

 ―今、なぜUIが必要なのでしょうか。

 ご承知のように、18歳人口が急減する一方で、大学の個性化・自律化を促す規制緩和が進み、大学間の競争がますます激しくなっています。志願者や企業、地域社会にとって魅力的な存在であるために、自らの特色や強みを再確認して、他大学との差別化を図り、社会的な認知度を高めることが、どの大学にとっても、これまで以上に重要になってきています。 

 ―UIという考えは、どこに由来するのでしょうか。

 UIのお手本は、企業におけるCI(コーポレート・アイデンティティ)です。企業にとっては、自身とそのブランドに対して、社会や消費者から好ましいイメージを得ることが不可欠です。
 環境の変化に対応した企業理念の再構成とともに、企業イメージを形成する上では、ロゴタイプやシンボルマーク、カラーなどの視覚的要素は重要な役割を果たしています。このため、広告宣伝、商品、建物、名刺など、目に見えるあらゆる媒体や機会において、訴求力を高めるために、それらの使用方法を統一するなど、一貫したイメージ形成に向けた努力が払われています。これを特にVI(ビジュアル・アイデンティティ)と言います。
 本学のUIでも、VIは大きな要素であり、ロゴやマークとそれを使用する基準を定めたマニュアルを策定する予定です。

 ―UI戦略の検討チームが設置された経緯についてお聞かせください。

 私自身がUIに関心を持つようになったのは、昨年、情報通信・メディア委員会の委員長に就いてからです。情報メディアの活用方策について、大学情報サービス室や企画室等と意見を交わす中から、現状における問題点が見えてきました。
 例えば、学部紹介のパンフレットのデザインやサイズ、および構成は、学部ごとにまちまちです。ホームページについても同様です。これは部局の個性を反映しているとも言えますが、「広島大学」という統一的なイメージの形成にはマイナスに働きます。
 また、広報に対する取り組みは部局主導で行われており、大学全体の広報戦略の企画・立案や調整がうまく機能していないという印象を持ちました。それらを踏まえて、法人化と関連してUI戦略を検討する組織の必要性を訴え、本年五月の大学運営戦略会議でチームの設置が認められました。

 ―法人化との関連を教えてください。

 先号の広大フォーラムの特集で指摘されていたように、これまでの国立大学では、私立大学に比べ、社会に対して自らのアイデンティティを訴求することに、それほど熱心ではありませんでした。
 その理由はともかく、法人化は、各国立大学に対して、理念・目標と、その実現に向けた計画や戦略の再設定を迫るものです。その意味で法人化とは、広島大学にとって創立に次ぐ第二の建学であり、「有力な地方国立大学」という既存のイメージに代わる、新しいブランドイメージを確立する絶好の機会といえます。

 ―UI活動では、外部に対するブランドイメージの形成が主になるのでしょうか。

メインターゲットは教職員と学生。
その波及効果が直接届くセカンドターゲットとして、学生OBと教職員OB、受験生、高校教員、学生の保護者、地域住民・企業、就職先、連携先・協力先などを視野に入れる。
 いいえ、外部への働きかけの前に、まず、直接の関係者である教職員と学生を主な対象と考えています。これらの関係者を通じて、卒業生や受験生、地域社会、企業などへの波及をめざします。
 VIも行いますが、基本的な姿勢としては、広島大学の良さを社会に認めてもらうには、まず、われわれ自身がそれを認識することが原点です。「よい大学」、「誇れる大学」を作っていくのは、この大学で学ぶことの素晴らしさや、この大学で働くことの喜びを知っている、われわれ自身なのです。

 ―これからのスケジュールを聞かせてください。

 これまで行ってきたのは、本学の強みや特徴という、広島大学が持つ「資源」を把握する作業です。また、理念と目標については、中期目標や中期計画の中で明らかにされてきています。
 これからの作業は、まず、それらをベースに「広島大学のアイデンティティ」を分析し、コアとなる概念を定めることです。そして、その結果を分りやすいメッセージやシンボルで表現していくことになります。
 UIは一過性のものではありません。法人化後も大学の経営戦略と一体となって、継続的に取り組んでいく必要があります。

(聞き手・広報委員会副委員長 平野 敏彦)

プロフィール
1979年
1979〜81年
1981年
1997年
2000年

専門分野:
広島大学大学院経済学研究科修士課程修了
富士通株式会社
広島大学経済学部助手
同経済学部教授
同大学院社会科学研究科マネジメント専攻教授

情報資源管理、社会情報学

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