特集

  UI(ユニバシティー・アイデンティティ)とは何か


文・王 怡人

(WANG,Yi-jen)
大学院社会科学研究科
マネジメント専攻助教授

 2000年度から一つの新しい展開として、マネジメント専攻が社会科学研究科に加わりました。この専攻は、経営管理のみならず、地域経済、経営法務、情報技術そして交渉学といった専門分野から学際的に構成されています。このような多分野に渡った構成は、守備範囲が広い一方、中心概念を明確に策定しなければ、散漫なイメージになりかねません。そのため、本専攻は設立して以来、抽象的なコアコンセプトを調整しながら、それを段階的に具体的な表現にし、対外的にその意図をアピールしてきました。以下ではその展開を簡単に紹介します。

社会における認知度の向上への試み
 設立とともにマネジメント専攻にとって最初に直面した課題は、社会における認知度の向上です。知名度を上げるために、本専攻がとった戦略の第一歩は「目をひく簡易パンフレット」の制作でした。なぜ最初から詳細なものではなく簡易版を作ったか?その理由は、認知度の向上にあたって、詳細な内容の告知よりもインパクトを与えることが効果的だからです。専攻の設立に関して、新聞による報道があったため、受験希望を持つ方はすでにある程度の認知を持っています。しかし、それ以外の人たちにとって、専攻に対する関与度が低い。そのため、これらの人たちを将来のターゲットに育てていくために、まず彼らの注目を得なければなりません。
 この簡易パンフレットのデザイン上の特長は以下の四点があります。
A.専攻に関する情報は最小限に抑える。
B.イメージをわかせるために、社会人モデルの写真を多用する。これで専攻の「社会人向けの夜間大学院」という性質を積極的にアピールしようとする。
C.全体の色調をモノトーンに限定し、ポイントとなる情報のみ鮮やかな色を使用する。これでプロフェッショナルな雰囲気をただよわせながら、読者の視線をコア情報のみに誘導する。
D.型破りなスタイルである。この簡易版のパンフレットは、変則的なサイズをとっている。これは、統一した大きさの大量な書類の中からは目立たせる工夫である。そして「観音開き」という折り方のデザインで、普通と違った順序で情報の展開をし、読者に異なった「読む」体験をさせる。
 二年目にはいり、専攻名の社会的浸透とともにより詳細な情報提供の必要性が生じました。しかし、ただ単に情報を伝達するだけではブランドの構築につながりにくいため、より戦略的な工夫を考案しなければなりません。

ロゴマークのデザインと専攻スタッフ全員による意思決定
 本格的なブランド構築に移るために、まず欠かせないのはロゴマークです。webページ・レターヘッド・名刺など、多岐に渡って展開された「対外コミュニケーション」を一つのブランドにまとめるためにロゴマークが必要です。七つほどの草案の中から、専攻スタッフの投票で「@mgt」というデザインが採用されました。この意思決定には、対内的にさまざまな専門分野からきたスタッフ間のコンセンサス形成という意味が込められています。ロゴのカラーリングとして、水色・青紫とオフホワイトの色彩で新鮮で爽やかな印象作りをねらいました。

濃密な情報を込めたパンフレットの制作
 ロゴマークの決定とともに、「社会人向け夜間大学院」というメインメッセージとカリキュラムに関する情報を中心にしたパンフレットを制作しました。このパンフレットにおいて、専攻に関する文字情報の量は前作より多くなりました。一方、文字では伝えきれないイメージの部分を補強するために写真も多用しています。写真の内容はすべて東千田キャンパスの中から取材しました。取材の対象はありきたりなものばかりですが、普段とは違った視点から捉えました。これらの写真を通じてマネジメントの独特な世界観を読者に伝えようとします。これは単に奇抜なイメージづくりを意図するのではなく、「組織経営の一般的な問題に対して、経営者の独特な見方が必要だ」というメッセージを込めた考案です。色調も前作と同じようにモノトーンをベースにしました。そして、ブランドとしての一貫性を持たせるために、パンフレットの各見開きの左下にロゴマークを配置しました。

 このように本専攻はブランド作りのために、段階的にコミュニケーション目標を定め、それにあわせてさまざまなアプローチから対外的に発信しています。その反面、専攻の内部でも対外発信のために、全員のコンセンサスに基づいたアイデンティティの構築に積極的に取り組んでいます。

プロフィール
1993年
1996年
1996〜97年
1997〜2000年
2000年


専門分野:
神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了
同博士課程修了
広島修道大学商学部講師
同助教授
広島大学大学院社会科学研究科マネジメント専攻助教授

広告論・マーケティング論
URL:http://imc.mgt.hiroshima-u.ac.jp/

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