PHOTO ESSAY -67-  中世の万華鏡




ノルマンディー、バイユー司教座教会、正面アーチ上方のガルグイユ(怪物の形をした雨水の落とし口)

ノルマンディー、バイユー司教座教会、内部入り口上方の動物彫刻

ノルマンディー、バイユー司教座教会の西正面
中世ヨーロッパの教会堂と自然空間

Church in Medieval Europe and Nature
文/写真・山代 宏道

(YAMASHIRO, Hiromichi)
大学院文学研究科
歴史文化学講座教授
 教会堂の建設は、ゲルマン的宗教からキリスト教への移行を示すものでした。それは、まずは建設者である領主のキリスト教的な宗教的欲求を充たすものでしたが、農民たちの宗教的欲求を充たすためには、キリスト教でなければならなかったのでしょうか。ゲルマン的世界観では、人々の救済のために、宗教的儀式で生け贄を奉納することで自然の神々からの災厄を鎮めてきていました。キリスト教では、すべてが神の計画のもとにあり、人々は、苦難を避けるために聖人のとりなしや修道士の祈祷に依存しました。なによりも、人類の救済のためにはキリストの犠牲が必要でした。キリスト教は、多様な神々や諸霊が存在する多元的な世界から一元的な世界へ、という解釈を出現させました。 それでは、中世の教会堂に見られる彫像の多様性(自然界の動植物や非キリスト教的な怪物像の存在)を、どのように解釈すべきでしょうか。それらは、彫刻家(非聖職者である職人)たちが身近な存在として認識し続けていたものを示しているのではないでしょうか。都市や村落の教会堂は、たしかに、キリスト教的建造物でしたが、同時に、克服された異教の神々や自然をその中に象徴的に配した空間でした。改宗後の宗教的儀式でも、一般の人々がキリストの犠牲を異教の生け贄の奉納と同一視していた可能性があります。教会堂は、キリストの犠牲の儀式を執り行う場であり、その儀式は異教時代の動物や人間の生け贄を奉献する儀式と類似しています。教会堂内には自然があしらわれ、祭壇はゲルマン的自然の森の中の祭壇と似ています。教会堂は、石造の森を現出させるために自然界の植物や動物、また、キリスト教からすれば異教的神々とも思われる彫像を配したのでしょう。元来、キリスト教の儀式や行事が、それまでの宗教行事(暦)に覆いかぶさるような形で導入されていったことが、以前の信仰や宗教形態の存続を可能にしたのではないでしょうか。

ノルマンディー、カーンの
男子修道院教会堂と筆者

ノルマンディー、モン=サン=ミッシェル修道院、下から見た教会堂外壁のガルグイユ

ノルマンディー、モン=サン=ミッシェル修道院回廊の彫刻(動物)

ノルマンディー、モン=サン=ミッシェル修道院回廊の彫刻(植物)



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