21世紀COEプログラムにおいて、広島大学か
らは「医学系」と「学際・複合・新領域」の
2分野にそれぞれ1拠点が選定されました。

放射線災害医療開発の先端的研究教育拠点
 ―ゲノム障害科学に基づく学術基盤の確立と医療展開―
拠点リーダー・神谷 研二
(KAMIYA, Kenji)
原爆放射線医科学研究所長


全ての放射線障害の原因はゲノム障害に起因する。図は、それを体系的に研究し、治療開発に繋げるCOEの研究戦略を示す。図中の写真は、DNA二重鎖切断部位に形成される修復蛋白質複合体を示す。
 大規模な原子力災害や不安定な国際情勢は、人々に放射線災害の不安を与えています。原爆被爆者や世界に拡大する被曝者のほか、医療や職業被曝、さらには宇宙開発に伴う被曝など、放射線被曝による健康問題は世界の課題となっています。放射線被曝は、ゲノム(全遺伝情報)の障害を起こし、これが原因となり多臓器不全に代表される急性障害やがんなどの晩発障害を起こします。本計画では、原爆放射線医科学研究所(原医研)、大学院医歯薬学総合研究科及び大学院理学研究科が総力を結集し、原爆医療で蓄積した世界一の研究資産の上に、ゲノム障害研究の科学的エビデンスに基づいた世界最大の二十一世紀の放射線災害総合医療開発拠点を確立し、次世代の研究者・医師を養成することを目指します。具体的研究としては、放射線ゲノム障害研究を推進しゲノム障害・診断・防護薬を開発する基盤を作り、次いで、新しい急性被曝治療法として多能性幹細胞(ES細胞、組織幹細胞)移植による組織再生法を開発します。晩発障害では、ゲノム科学的方法による白血病等の病態解析を進め、これを利用して障害を持った遺伝子を追跡するモニター法を確立し、被曝者疾患の新治療と疾患予防法を開発します。最終的には、ゲノム障害情報による被曝線量やリスクの評価から全ての放射線災害に対応できる集学的システム医療の開発を行いたいと考えています。
 この研究成果は、ゲノム障害医学を確立し、ゲノム障害に起因するがん、生活習慣病や老化の機構解明、広く他の災害医療、遺伝子モニター法による予防医学に応用しうるものであります。この様な研究教育は、唯一の被爆国である日本のみができる学術的国際貢献であり、原子力平和利用の安全ネットにもなりうると考えます。

社会的環境管理能力の
  形成と国際協力拠点
拠点リーダー・松岡 俊二
(MATSUOKA, Shunji)
大学院国際協力研究科教授


研究の年次計画図
 大学院国際協力研究科(以下IDEC)における二十一世紀COEプログラムは、途上国における社会的環境管理能力の形成をキーワードとした文理融合型学際研究を途上国の大学・研究機関と共同で展開することにより、国際協力のイノベーションへ向けた新たな知識創造、「国際協力学」の構築を行うことを目的としています。社会的環境管理能力とは、自ら環境問題に対処する能力であり、こうした社会的能力は政府・企業・市民の個別能力、その相互関係および中央・地方関係から形成される社会的環境管理システム(SEMS)の稼働能力として定義されます。主にアジアの途上国を対象に、各国における社会的環境管理能力の形成プロセスを動態的に解析し、社会的環境管理システムの発展ステージを明らかにすることを目的に研究を進め、また研究を通じて国際協力を担う人材を持続的に育成していく計画です。
 このプログラムを実施するにあたりIDECおよび広島大学国際環境協力プロジェクト研究センター(HICEC)をベースとして、国際環境協力に関する学内外研究者の広範な参加のもとにプログラムを実施します。具体的には、IDECを拠点(=COE)とし、中国、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナムのアジア五ヶ国における大学、研究機関、産業界、NGOと研究教育ネットワークを形成する予定です。
 また、こうした一連の学術研究の展開により、各国における社会的環境管理能力の形成・発展にとって適切な政策体系と国際協力のあり方を提言することも本プログラムの大きな目的の一つです。さらに、学術研究および政策提言だけでなく、大学の社会的貢献を果たすため、実際の国際協力にかかわる調査研究事業、評価事業や研修事業なども積極的に実施していく予定です。



広大フォーラム2003年10月号 目次に戻る