PHOTO ESSAY -71- 生物多様性 |
---|
文/写真・井鷺 裕司 ( ISAGI, Yuji ) 総合科学部 自然環境科学講座助教授 |
ヒメタヌキモ:貧栄養の池に生育する食虫植物です。東広島市には全国でも有数の個体群が生育しています。本種は一般に花着きが悪いといわれていますが、広島大学近辺には非常によく開花する系統が生育しています。 |
サギソウ:湿地に生育し、夏に細かく切れ込みの入った鷺の飛翔にたとえられる美しい花を咲かせます。盗掘によって数が減っていますが、東広島市には日本でも有数の個体群が残っています。 |
|
|
トキソウ:花の色が朱鷺色であることから名づけられた湿地に生育するラン科植物です。サギソウと同様に盗掘によって数が減っています。 |
エヒメアヤメ:明るい林に生える小型のアヤメです。春に10センチほどの丈で開花します。昭和30年代の燃料革命以降、里山で柴刈りがされなくなるとともに急速に減少したと考えられています。 |
イシモチソウ:日当たりの良い湿地に生育する食虫植物です。春から初夏にかけて発芽、開花し、開花後姿を消します。東広島市には全国でも有数の個体群が生育しています。また、東広島キャンパス内でも移転に伴って造成した場所で新たな個体群が成立しているのが最近発見されました。 |
ムラサキミミカキグサ:湿地に生育する食虫植物です。 |
多くの野生生物が現在絶滅の危機に瀕していることをしばしば耳にされると思います。その様な生物を絶滅危惧種と呼んでいますが、広島大学東広島キャンパス周辺ではこれまで20種を超える絶滅危惧植物が生育していることが知られています。この数は主に花を咲かせる高等な植物を対象としたものですが、更に動物や下等な植物にまで調査対象を広げれば、30種は超えるものと思われます。これらは、いずれも貴重な生物ですが、東広島キャンパス周辺の農地やため池周辺の環境に、人の営みと共存するような形で生育しています。これだけ多数の絶滅危惧種に囲まれた総合大学は稀有な存在といえるでしょう。ここでは、大学近辺で見られる絶滅危惧種のうちの一部を写真で紹介します。いずれも東広島では私達のごく身近に生育しているものです。 私は、専門の研究(保全生物学・森林分子生態学)の為に様々な生態系で野外調査を行っています。日本各地に残された原生林、あるいは数億年前の地層がそのままむき出しになったオーストラリアの雄大な光景等、どこも訪れる度に深い感動を与えてくれます。そういった生態系から研究試料を採集し、研究室で遺伝解析を行っているのですが、普段目にする、農業等の人の営みと共存しているこれらの絶滅危惧種にふれる度に、まさに青い鳥はすぐ近くにいた!という思いがしています。これらの絶滅危惧種の個体群がどのように維持されているのか明らかにすることも興味深い研究テーマであると考えています。 |
ベニオグラコウホネ:オグラコウホネは、現在は干拓によって消えた京都府南部の小椋池で最初に発見されたことから命名された絶滅危惧種ですが、東広島市でみられるベニオグラコウホネは雌しべの柱頭が赤い変種で、更に個体数が少ないものです。 |