文・辻 秀典 (TSUJI, Hidenori) 国立大学法人設立本部 人事制度ワーキンググループ座長 法学部教授 |
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法人化後の人事制度構築の作業は、「国立大学法人設立本部」(九月三十日までは「国立大学法人設立準備会議」)のもとにある人事制度ワーキンググループ(以下、「人事制度WG」という。)で進められています。作業の土台となっているのは、「準備会議」の前身組織である「独立行政法人化対策会議」(人事制度WG)による『法人化後の広島大学教職員の人事制度構築に向けて(第一次案…基本設計)』(以下、「基本設計」という。)です。これは既に、評議会でも報告されていますので(平成十五年一月二十一日)、ご存じの方も多いと思います。 人事制度WGは、現在、この「基本設計」に検討を加え『法人化後の広島大学教職員の人事制度構築に向けて(第二次案…詳細設計)』として取りまとめをはかるとともに、法人化後の労働条件を定める就業規則(労働条件・服務規律などを記載した規則のこと。労働基準法第八十九条により法人化後の広島大学は作成を義務づけられています)案の作成に取りかかっており、十月中には作業を終える予定です。
さて、人事制度構築の基本方針として、「基本設計」では、(1)全学的な視点から柔軟な人員配置を行うこと、(2)公正な人事評価制度の確立などがうたわれていましたが、このうち(1)については、今年七月の評議会で教員の人員配分方針(部局基礎分七十五%、部局付加分十五%、全学調整分十%)が承認され、実施に向けて大きく動き出しました。(2)についても、「評価委員会」からやはりこの七月に報告がなされるなど、人事評価制度の設計が具体的に進んでいます。 以下においては、このような基本方針のもとで、法人化後の人事制度がどのようなものとなるのか、特に、教職員のみなさんに関心の高い労働条件を中心に述べることにします。ただ、これから述べることは、人事制度WGで検討中のものを筆者の責任でまとめたものであり、親組織である「国立大学法人設立本部」や評議会などで審議決定されたものではないことにご注意ください。これらの機関にかけるための素案(しかも、検討中の素案)にすぎません。
これまで、私たち教職員は国家公務員であり、勤務条件は国家公務員法・給与法・人事院規則などによって細かく決められ、教職員がその決定に直接関与する途は限られていました。法人化に伴い、私たちは「非公務員」となり、この縛りが解け、労働条件を法人内で自由に決定できることになりました。 もっとも、労働条件の自由な決定といっても、まるで自由というわけではなく、労働基準法(以下、「労基法」という。)、労働安全衛生法など労働法令の定めに反することはできません。これら法令は、使用者との関係で労働者は経済的・社会的に劣位に置かれているとの認識のもとに、労働条件の最低基準を定め、これを下回る労働条件を認めないことにしているからです(憲法第二十七条第二項・労基法第十三条参照)。また、同じ認識のもとに、団体交渉など組合活動が奨励されており(憲法第二十八条・労働組合法参照)、労働条件の決定にあたっては、労働組合が重要な役割を果たすことになります。 法人化後の本学の労働条件もこの枠組の中で決められていくのですが、その際、重要な意味を持つのは就業規則の作成です。というのも、労働条件や服務規律を記載する就業規則は、その内容が合理的なものである限り、「職場の労働基準法」として法的効力を有するとされているからです(労基法第九十三条参照)。就業規則の作成手続きは、労基法によって定められており、これを本学の場合に即して図示すると次の通りです。
常勤職員については、法令にもある通り(国立大学法人法附則第四条)、法人化に伴い身分は当然に国立大学法人に引き継がれ、雇用は継続されます。非常勤職員については、同規定の適用はありませんが、本学では雇用の継続を前提に、そのあり方などについて検討中です。
法人化することのメリットは、当該法人の目標・計画や特性にそった働き方を可能にする自由の保障にあるわけですから、賃金・労働時間などの労働条件についても本学の目標・特性にそったものにすべく改革を検討中です。とはいえ、現行制度は五十年以上も私たちが慣れ親しんできた制度ですから、その変更には慎重さが求められます。そこで、重大な変更に関しては、移行期間を設けるなどして、大学の運営に支障が生じないよう措置を講じながら進めていくことにしています。 以下、すべての労働条件について述べるわけにはいきませんので、多くの教職員に共通する事項を中心に取り上げることにします。 (1)賃金制度について …………… 当面は、現行の賃金制度と変わりはありませんが、二年ほどの試行期間を経て(予定されている公務員制度改革の時期を念頭に置いています)、公正な人事評価制度に基づく賃金制度の導入を考えています。(独立行政法人通則法第六十三条第一項により、国立大学法人の「(教)職員の給与は、その職員の勤務成績が考慮されるものでなければな」りません。)既に述べましたように、人事評価制度については、教員に関しては、「評価委員会」がこの七月に学長宛に報告書を提出していますし、職員に関しても、人事課などでの検討を経て評価制度案ができあがりつつあります。人事評価制度の普及している民間企業でも、人の評価は難しいというのが定説のようですが、公正な評価に基づく、めりはりのある賃金制度は大学の活性化に不可欠と考えています。試行期間を十分に活用するなどして、良い制度をつくっていこうと考えています。 なお、国立大学法人における賃金及び退職手当の支給基準は、当該国立大学法人の「業務の実績を考慮し、かつ、社会一般の情勢に適合したものとなるように定め」る必要があります(独立行政法人通則法第六十三条第三項)。 (2)労働時間について …………… 原則として、労働時間・休日・休暇制度についても、現行制度を維持していく予定ですが、とりわけ、大学教員の教育研究の実態にあった労働時間制度の構築が必要と思われます。現在、文科省と厚労省の間で協議中と聞いていますが、裁量労働時間制度の大学教員への適用問題に結論がでるのを待ちながら、検討を進める予定です。また、新たに適用されることになる労基法などに照らし、現行制度のなかには維持できないものも見受けられます。病院の宿日直制度などがその代表的な例ですが、これらについては必要な見直しをしなければなりません。その方向で取りまとめ中です。 (3)年金・医療保険・退職手当制度などについて …………… これらに関しては、国立大学法人は法令により次のような扱いを受ける予定です。常勤職員の医療保険・年金については、引き続き国家公務員と同様の取扱いとなります(国家公務員共済組合法)。常勤職員の退職手当についても、現行の国家公務員の場合と同じ計算方法で支給されますが、国立大学法人に引き続き勤務する職員に関しては、国立大学法人を退職する時に、法人化前の在職期間を通算した上で退職手当が支給されることとなります。業務上の災害に関しては、国家公務員災害補償法などに代わって労働者災害補償法が適用になりますが、大きな違いはありません。このほか、新たに、雇用保険への加入が義務づけられることになります。
ここで、人事制度というのは、採用・異動(配転・出向など)・昇進・懲戒・退職など、世間で言うところの「人事」に関するものをいいます。これについても、現行の人事制度を踏まえつつ、「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」という目標実現のため、優れた人材を確保し、教職員が互いに切磋琢磨する中で持てる力を発揮し、能力を伸ばしていくことができる新たな人事制度の構築を図ることにしています。 教員についていうと、公募制による採用・任期制の一層の推進、公正な人事評価制度の導入、顕著な業績を挙げた教員の定年後の再雇用制度の導入などを考えています。ところで、非公務員化に伴い、教育公務員特例法の適用がなくなりますが、異動・懲戒・解雇などに関しては、教授会・教育研究評議会の議を経て行うなど、同法の仕組みを今後も維持していくことにしています。人事の公正さを担保する仕組みは、改革が求められ、激しい変化が予想される時期だからこそ、今まで以上に必要と考えるものです。 職員人事についても、公正な評価システムの導入、これに基づく昇進・配置の決定、複線型のキャリア体系の確立、高度な専門能力を有する人材の養成などを考えています。なお、職員の新規採用に関しては、全国の国立大学法人で統一試験を実施し、原則としてその合格者の中から採用する予定です。 また、人事院による不服申立・措置要求制度が利用できなくなりますので、これに代わるものとして、学内に苦情処理制度を設けることを検討しています。
人事制度WGでは、十月中には検討作業を終え、『法人化後の広島大学教職員の人事制度構築に向けて(第二次案…詳細設計)』および就業規則案などの作業結果を「国立大学法人設立本部」に提出する予定です。これらが、その後、同「設立本部」を経て、評議会などの審議に付されることになるのはもちろんですが、これとは別に、教職員のみなさんへの情報提供、教職員組合との協議・交渉などを通じて、広く全学から意見を求めていくことにしています。活発な討議、意見交換のなかで、私たちの作業結果が練り上げられ、活力ある大学づくりに資する人事制度が構築されていくものと期待しています。 |