『原 民喜
 ―人と文学』


大学院教育学研究科
岩崎 文人 著
勉誠出版/2003年/1,800円
 〈日本の作家百人シリーズ〉の一冊として書き下ろしたもの。評伝編の「死と愛と孤独」では生誕から被爆、戦後の凄絶な自裁までを、原民喜の作品と新資料に基づいてたどっています。広島大学附属東雲小学校時代の作文、兄守夫とともに創刊した兄弟同人誌「せれなで」(原時彦氏蔵)、遠藤周作の書簡、GHQ占領下の検閲書簡(いずれも広島市立中央図書館蔵)などは、原民喜の実像と文学を知る上で貴重な資料ですが、本書で初めて紹介しています。「原民喜の文学」では、『夏の花』三部作の成立とその周辺についての論究の他、原民喜の詩(四行詩・自由詩・原爆詩)、彼の文学的資質が鮮やかに結実したともいえる『美しき死の岸に』を中心にした掌編小説(『焔』『幼年画』)について論じています。巻末に原民喜の年譜と主要参考文献を付しています。



『義歯安定剤』

大学院医歯薬学総合研究科
浜田 泰三
医学部・歯学部附属病院
村田 比呂司 ほか著
デンタルダイヤモンド社/2003年/5,600円
 義歯産業は医療用具の中では長い歴史と共に今日巨大産業の一つです。現在では歯を失うことは生活習慣病としての一面も明らかになり、できるだけ歯を失うことのないように心がけています。しかし今日日本の義歯人口は一千万人と言われています。義歯に対して不満な方も多く、義歯の痛みを緩和し、不満な義歯を少しでも補うために、薬局で購入できる義歯安定剤というものが実に年間百億円も売れています。
 これまで、歯科医師はほとんどこれらを無視してきましたが、本書では単に不満義歯の補助剤だけではなく、超高齢社会で口渇感を訴える人々に対し、唾液の粘稠度を高めて、義歯が口腔内で働きやすくしたり、補助維持を与えることは理にかなった、ある意味でバイオ的な取り組みであることをレビューしました。タブー視され続けたテーマに対しての単行本刊行で、学会での企画も始まったりしており、新しい展開が生まれそうです。
(大学院医歯薬学総合研究科 浜田 泰三)



『邪馬壹国讃歌』

法学部
岩谷 行雄 
文芸社/2002年/1,000円
 さんこさんこと 名は高けれど/さんこさほどの器量じゃない/締めて鳴るのは 太鼓と鼓/なんぼ 締めても わしゃ鳴らぬ
 「なんぼ」とか「わしゃ」とか、広島弁で幾世紀も人々によって酒席の最後に歌い継がれたさんこ節が広島・島根・山口の三県に跨り、伊都国に接する邪馬壹国の卑弥呼の都=三原市高坂町真良を示します。真良は「しんら」新羅を示すと考えました。三原市史が記載する伝承が本書の考える基盤でしたが、読者の一人 三原市史編纂委員から高坂村誌(大正十五年)が送られてきました。村誌に「此里新羅人ノ居リタル所」とあります。大きな想像の産物であります本書。研究室に見知らぬ人から電話がありました。二冊直ぐに欲しい。本屋は間に合わない。これから取りに行くと。びびっびと来たからと。ありがたいことです。さんこ節は反権力の歌です。権力が隠しに隠したい、だから三千とも、一万とも言われる邪馬台国説ができます。「何故隠したいか」から始めない者には邪馬壹国は分かりません。



『哭きの文化人類学:
 もう一つの韓国文化論』


総合科学部
崔  吉城 
(舘野 皙 訳)
勉誠出版/2003年/1,600円
 人まえで大泣きする韓国人、人まえで涙をこらえる日本人、この違いはどこからくるのでしょうか。私は三十年前に日本に留学のために来た時指導教官が亡くなり、お通夜と葬式に参列したことがあります。静かなお葬式に驚き、また悲しさのない葬式だと感じました。以来、私は悲しさと涙、泣くこととの関係に関心をもって世界中広くフィールドワークに出掛けています。
 この本は、だいぶん前に韓国語版で出版したものを翻訳のベテランの訳者に訳してもらって、私が日本の読者のために新しく書き加えたものです。動物、昆虫の鳴き、人間の男女の泣き、儒教葬式における哭きなどおもに東アジアの哭きの比較文化論です。


広大フォーラム2003年12月号 目次に戻る