PHOTO ESSAY -72-  水辺の緑




太田川源流域(広島県 廿日市市吉和 細見谷):渓流に沿ってトチノキ、ブナ、ミズナラなどの樹木が見られます。このような渓流域では、樹木から供給される落葉が渓流に生息する水生昆虫の重要な餌資源であることが知られています。

ニホンヒキガエル:太田川源流域の渓流沿いにて。ニホンヒキガエルは、広島県では生育環境の悪化により個体数が減少しており、島しょ部や山間部でしか見られない希少種です。

ミナミヌマエビ:河畔林が隣接する川に入り、落ち葉だまりや水中に出た植物の根の周辺を探ると、エビやカワニナ、ヤゴ、様々な種類の稚魚が見つかります。
陸域と水域をつなぐ河畔林
Riparian forest links between trrestrial
and aquatic ecosystems
文/写真・佐々木 晶子

( SASAKI, Akiko )
大学院生物圏科学研究科
環境循環系制御学専攻
博士課程後期2年
太田川中流域(広島市 安佐南区 八木):砂州上に広がる河畔ヤナギ林。太田川では、ネコヤナギ、タチヤナギ、アカメヤナギといった種が多く見られます。
 山あいの木々の間を流れる渓流(写真1)、蛇行する河川に沿って青々と茂る樹林(写真2〜4)、これらは私たちが美しいと感じる風景の一つではないでしょうか。このような水辺、とくに河川に沿って成立する森林は、河畔林(渓畔林)と呼ばれます。河畔林は、河川の影響を受けて形成された地形(氾濫原や砂礫堆など)に沿って成立する森林です。そして、河川への日射を遮断したり、落葉や倒木を供給したりすることによって、河川環境にも影響を及ぼしています。したがって、河畔林が成立している場所は、陸域と水域の間に様々な相互作用が成立している場と言えます。
 河畔林の周辺では、陸域、水域に関わらずたくさんの生物を見ることができます(写真5、6)。河畔林がつくり出す空間は、これらの生物の重要な生育場所となっているように思われます。また、河川によって陸域から運ばれる有機物が、河口域の生物に餌として利用されていることが分かってきました。それらの有機物の一部は、河畔林の落葉に由来するものかもしれません。このように、河畔林が、陸域だけでなく川や海の豊かな生態系を保つ、重要な要素の一つとなっている可能性が充分に考えられます。しかし、河畔林がその生態系や物質循環のなかでどのような役割を果たしているのか、具体的にはまだ分からないことが多くあります。
 日本の多くの河川では、河川改修工事などによって河畔林が減少してきました。私たちが水辺で何気なく目にする河畔林ですが、それらが失われると、ある種の生物にダメージを与えるだけではなく、陸から海までといった、広範囲にわたる生態系や物質循環のバランスが崩れてしまう恐れがあります。現在私は、河畔林が持つ機能と、その影響の大きさを明らかにすることを通して、河畔林が陸域から河川、海域の生態系や物質循環において担っている役割を評価しようと研究を行っています。

研究室のホームページ:
http://home.hiroshima-u.ac.jp/akikos/index.html

ネコヤナギ:太田川では、とくに上・中流域を中心に、ネコヤナギが広く分布しています。ネコヤナギは、ヤナギ類のなかでも最も水流に近い立地を生育場所として好みます。埋没、損傷した幹から新たな芽や根を出す能力が高く、河川による攪乱に対する耐性を備えています。

ネコヤナギの花芽:2月中旬ごろ、ネコヤナギは銀色の毛で覆われた花のつぼみをつけます。花芽が光を浴びる様子は、春の訪れを感じさせます。


広大フォーラム2003年12月号 目次に戻る