10月号と12月号で「法人化特集」を組みましたが、その前半である10月号では、特に「国立大学法人法」の解説を中心に、法人化に伴って制度的に変わることになる点の紹介を行いました。後半の本号では、「国立大学法人広島大学」がめざす「ありたい姿」について特集しています。
 まず、広島大学の真の姿を正しく知り・知ってもらう「ユニバーシティ・アイデンティティ(UI)」について、牟田学長の要請により結成されたUI戦略検討チームに、その活動内容を報告して頂きました。次に、『中期目標・中期計画(素案)』および『国立大学法人広島大学設立構想』について、高橋副学長と法人化対策室に、その骨子をまとめて頂きました。最後の「学長インタビュー」では、牟田学長がめざす「広島大学像」、そしてそれに至るために、この法人化を機にやるべきこと等について、学長の「思い」を語って頂きました。
 広島大学のホームページの中に、「ムタ・メールマガジン」、「国立大学法人設立本部」、それに「広大のアイデンティティ」のページがあります。ぜひ本特集と共に、これらの関連情報も参考にされて、一緒に「広島大学のありたい姿」について考えてみませんか。


広島大学のアイデンティティは
どこにあるのか
文・匹田 篤(HIKITA, Atsushi)
大学情報サービス室助教授
文・三戸里美(MITO, Satomi)
法人化対策室
文・三根和浪(MINE, Kazunami)
大学院教育学研究科助教授
広島大学のアイデンティティ活動
 広島大学というと、まず連想されることは何でしょう。広島大学を象徴する建物や景色、連想される色、人などなど人々の持つ広島大学のイメージは、様々な要素から成り立っています。このイメージを内外の人が共有できるようになると、それが広島大学のアイデンティティやブランドイメージとして認識されるようになります。このような共通の認識が広島大学にはあるのか。どこをこれから守っていきたいのか、変えていきたいのか。少子化社会や国立大学法人化を控え、この戦略の必要性が高まってきました。
 2002年の11月、広島大学のアイデンティティ(University Identity=UI)を検討するワーキンググループが大学運営戦略会議の下に設置されました。学内の有志が集まったUI戦略検討チームが、この春からアンケートを行ったり、企業ヒアリングに行ったりもしました。検討作業は、調査や現状分析を行うフェーズ1がほぼ完了し、具体的なデザインやコンセプトを考えるフェーズ2がこの秋から段階的に始まっています。UI戦略検討チームは、よりクリエイティブで親しみやすい活動にするべく、その名前を「広島大学アイデンティティ・プロジェクト(HIP)」と変えました。HIPは広島大学のUI活動に、本学の学生や教職員により積極的に参加していただくことを目標としています。

大学改革と広島大学の強み

■UI活動を通じて
 UI活動フェーズ1の目的は二つ。一つは、広島大学の伝統に立脚した今の広島大学の強みを確認すること。もう一つは、大学運営戦略会議での審議も経て、これから未来に向けた広島大学の魅力やこだわりを明らかにすることでした。このフェーズでは学内外の方々や同窓生などのお話を伺う機会も多く、教育、研究、社会連携など様々な場面で、広島大学の新たな力を生み出そうと熱い情熱を持ってがんばっている教職員や、広島大学に期待し応援してくださる方が大勢いることを知りました。

■大学改革模様
 学外に目を向けてみると、国公私立を問わず多くの大学が、小手先ではない競争力を身につけようと大学改革を進めています。それに加えて、国立大学は法人化に向けた準備を進めています。
 他の国立大学も広島大学も同じ国立大学法人法から新しい運営の仕組みを構築しつつあります。今後の課題は、実際に機能するかどうかです。制度や組織の変更によって得た力が本当の強さなのか、ということを問われているような気がします。

■広島大学の持ち味
 フェーズ1の調査結果によると、広島大学の持ち味は、社会からの要請に応えるために、新しい領域を切り開こうとする「変革に燃えるまじめさ」です。
 例えば、広島大学の変革の一つに事務機構改革があります。改革のコンセプトは、事務部門の改革が大学改革の重要な一翼を担うという認識の下、職員もこれまでの業務内容を見直して、大学運営に携わる高度専門職業人の養成をしつつ、組織のスリム化、サービスの向上など新しい大学にふさわしい事務機構に向けて自己変革を図ろうというものでした。数名の職員から構成されたメンバーを中心にまとめられた「事務機構改革の骨格」は、七十名以上のチームによる実施案の検討に引き継がれました。
 新しい業務やサービスを提供するために、先進的な私立大学に見学に行ったり、専門家に会ったりして、新しい領域を積極的に学ぶ人もあらわれてきました。これも、新たなことを吸収し考えようとするポテンシャルの高さの表れでしょう。

広島大学の目指す方向とは?
 HIPでは現在「新しいことに挑戦し行動する人材が育つ大学」をアイデンティティの一つの柱として、検討を重ねています。そのキーワードはズバリ「人材育成」です。

■改善DNA
 現代は変化の激しい先行き不透明な厳しい時代です。これまでの価値観にとらわれることなく、常に変化への柔軟な対応が求められる時代に入っています。広大生や広大の卒業生そして教職員が、この厳しい時代にフロントランナーとして走り続け、同時に自己実現を図ることができるようにするためには、「新しいことに挑戦し行動」しようとする人物であることが欠かせません。言葉を換えれば、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決しようとする資質や能力を持った人物です。
 そのためにはアイデンティティとして、この「改善DNA」とも言える自己発展力を更に伸ばしていくこと、これが現在をふまえた大きな目標となると考えられます。
 ある教員は、広大生を「ノーベル賞受賞者で例えると、小柴さん型でなく、田中さん型」と評しました。「まじめで地味で目立たない。けれど実力がある」という評価を肯定的に受け取り、良さとして発展させたいものです。

■「教育」という財産を生かす
 フェーズ1のアンケートやヒアリング調査の結果から、広島大学には伝統や歴史に立脚した「教育」というイメージが強く残っていることがわかりました。一度持たれたイメージは容易に変えることができないことを考えると、それを肯定イメージで持たれていることは広大の大きな財産です。長い時間をかけて育て上げられてきたこれらの基礎体力をもとに、さらに発展させていく、これが過去の財産を生かすということです。そのためにはこれからもイメージ通りの実態が伴っていることが必要です。
 幸いなことに、HIPの活動をするなかで「広大の教職員の語りは熱い!」という言葉を何度も聞きました。一人一人の学生が本当に広大に来てよかったと思えるような教育、これが質の高い学生を育て、ひいては「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」に到達する最大の要因になることを忘れないようにしたいものです。

HIPはフェーズ2へ
 このようにフェーズ1において、広島大学が持つアイデンティティが明らかになってきました。この他にも、入試や就職、地域連携といった様々な切り口で分析をおこなってきました。
 そして、HIPの活動はフェーズ2、すなわち大学の存在意義や個人の価値観といったマインドの要素や、ロゴやキャッチフレーズといったビジュアルの要素についての具体的な検討が始まっています。法人化の後には、イメージの浸透や検証といったフェーズ3が待っています。
 新生・広島大学のスタートまでもうすぐです。構成員個々人が広島大学のあり方や価値について、もう一度考えるよい機会だと思います。
 そのきっかけ作りとしてHIPではコミュニケーション誌「HIPマガジン」をこの夏に創刊しました。
 広島大学の現状と将来を考える上で、特に直接接点のある、広島大学の入学者の動向や企業からの期待について、フェーズ1の結果をもう少し考えていきましょう。


UI活動の流れ


広大フォーラム2003年12月号 目次に戻る