(広島大学の入学者動向) 志願者・入学者の状況から、 本学のアイデンティティを考える |
文・岩田 光晴( IWATA, Mitsuharu ) 高等教育研究開発センター助教授 アドミッションセンター助教授 |
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■減少傾向が続く志願者
志願者減少の背景には、@環境的要因(少子化、大学進学率の伸び悩みなど)A高校教育の変化(学習指導要領の改訂、現役合格指導など)B受験生の大学選択基準の変化(経済性、地元志向、入れる大学選びなど)がありますが、それらはどの大学にも該当します。 本学の志願者の減少率は学部入学定員の削減比率を大きく上回っており、競合する他の国立大学との比較でも、最も高い減少率です。その中でも特に気になるのが、本学への入学第一志望者が受験する比率が高い、「推薦入学等」と「一般選抜の前期日程」の志願者の減少傾向が続いていることです。 予備校データでも、他大学に比べ第一志望率の低さが確認されており、入学後の学習意欲や他の学生に与える影響、大学院への進学などを考えても、優先的に改善すべき課題だといえます。 ■入学政策の検討において、三つの視点から見ることが必要 国立大学人気が根強い中で、本学だけが志願者を減少させている要因は何か?それを、本学固有の特徴からくる三つの視点で考える必要があります。 ひとつは、構造化された入試における本学のポジションです。募集定員の八十五%を占める一般選抜では、各予備校公表の偏差値データで旧帝大クラスの大学と地方国立大学の中間に位置している本学は、配点基準で大学入試センター試験の配点ウェイトが高いこともあり、試験の結果次第では、偏差値が前後に位置する他の大学に志望を変更されやすいポジションにあります。 次の視点は、入学者出身地域の裾野の広さです。その地区別比率は、広島県約二十五%、中四国地区でようやく五割を超え、九州が約二十五%、関西も十%強など、西日本全域を網羅しています。(図2参照)特定地域に偏った国立大学は多く、岡山大学が中四国で六十五%、九州大学は九州地区で八割近くを占めている状況から見ても、本学は、広報活動範囲が広く大変ではありますが、様々な地域で育った多様な学生を確保できる優位な状況にあるといえます。 最後に、キャンパスの移転です。高校の教員が、受験生に広島大学を勧めてくれても、「田舎にあるから」と断られている様子も度々聞きます。実際、本学の教職員からも「移転したのがいけない」と聞く機会が多々あります。 三つの視点を通して、「本学の強みを発揮できずに、独自性が薄れている」と思います。大学として、明確な入学政策の推進と戦略的な広報活動が充分なされてこなかったと感じています。 ■入学者選抜は大学教育の中身や特徴を伝える絶好の機会 本学の個別学力試験は、高校生の真の学力を測れる良問として高校現場に評価され、「誠実」「本質を大切にする」など、本学の教育姿勢として受け止められ、好印象を持たれています。 様々な将来の進路や学習ニーズに対応した、きめ細かな教育組織で募集単位を設定している本学が、明確なアドミッションポリシーを反映した入試で選抜を行っていけば、教育への情熱は伝わっていくと思います。 ■入学者出身地域の裾野の広さと、本学卒の高校教員は大きな強み
本学の認知が地方まで行き届いているのは、幅広い地域の高校現場で活躍されている本学卒の高校教員が、志願者の本学認知から興味・関心の形成に大きな影響力を与えているからです。これは、本学にしかない貴重な財産であり、本学卒の高校教員が大幅に減少している現状からも、この強みを維持していく対策が早急に必要です。 ■一つに統合されたキャンパスこそ広大の強み オープンキャンパスに参加してくれた受験生は、「緑に囲まれたキャンパスが魅力だ」、「地元大学より、広大の施設の方が優れている」など東広島キャンパスの良さを見つけて、魅力的に感じてくれる人が沢山いました。 霞キャンパスは医療の分野をほぼ網羅し、東千田キャンパスは社会人・ビジネスマンが集う場になっています。そして、東広島キャンパスは、学部・大学院がひとつにまとまり、簡易な移動、学生の交流、学部間を越えた教育・研究など、様々な融合が可能です。他にも「良さ」は多数あり、我々から積極的に伝えていかねばなりません。 ■高校現場の期待と要望を課題解決のヒントに、さらに信頼を築く 入学政策は、様々な環境変化を捉え、常に見直しが必要ですが、その「答え」の一部は高校現場にあります。アドミッションセンターは、二年間で百五十校の高校を訪問し、本学への要望を積極的に伺ってきました。各高校の進路指導教員や本学卒の教員が教育改革に本気で取り組んでいる様子や、本学への期待を感じることができました。そして、高大接続に関するたくさんのヒントを得てきたことも事実です。社会で活躍できる人材を育てるという共通の視点で、高校の先生方と一緒に、若者の志や夢を育む仕組みを確立することが大切だと感じています。さらには、本学の入試のみならず教育改革に対する貴重な「評価者」としても、より深い信頼関係を築いていく必要があります。 ■ローカルを知った、各地域の代表選手を育み、社会に送り出す 本学の入学生は、中学校の活動や成績が秀でていた、各地域の町や村の代表選手ともいえます。言い方を変えれば、地域の期待を背にした「ポテンシャルと志」を持つ若者達です。 我々は、彼らの本学への入学動機の形成や学習意欲の向上をサポートし、学習と就職・進路への期待感をしっかりと育んだ上で入学者として迎え入れることが重要です。そして、それが入学政策の鍵であり、第一志望率を高める活動にもつながります。 志願者の減少を現実として受け止め、教育改革の絶好の機会として捉えて、明確な人材育成観を持って進んでいく事が大切です。「まじめ、誠実、おとなしい」と言われる本学の入学者を、主体的に学ぶ力を持ち、自ら目標設定を行い、新しいことに取り組む進取性、そして、社会の様々な現場で実力を発揮できる行動力を持った学生に育てて、社会に送り出していきたいものです。 |