文・高橋 超( TAKAHASHI, Susumu)

広島大学副学長
国立大学法人設立本部副本部長
 中期目標・中期計画については広大フォーラム十月号(No.378)特集「国立大学法人化前夜」の中で、国立大学法人法をもとに法人化後の大学運営という視点から説明されていますので、本稿では、現時点での『中期目標・中期計画(素案)』について、その構成に沿って概要を示すことにします。
 なお、広島大学が九月末に文部科学省へ提出した素案は、国立大学法人評価委員会で審議され、そこでの意見等を踏まえ、正式には、新たに法人として発足する平成十六年四月一日以降に、国立大学法人広島大学の役員会、経営協議会、教育研究評議会で審議の上、文部科学大臣に提出することになります。文部科学省では財務省等との協議を経て、文部科学大臣が「中期目標」を定め、広島大学に示すことになります。この目標を基に広島大学で「中期計画」を策定し、文部科学省の認可を受けなければなりません。また、この場合遅滞なく公表することも義務付けられています。

理念と目標
 中期目標では、「自由で平和な一つの大学」という開学以来の精神を継承すること、また、平成七年十一月、新たに掲げた理念五原則を国立大学法人広島大学としての使命を果たすための基本的理念としています。そのために、教育に関する目標、研究に関する目標、社会との連携、国際交流等の目標の項で、それぞれの目標を定めるに当たっての理念を明確にしています。

到達目標と長期ビジョンに基づく具体的目標
 牟田学長が掲げた「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」を到達目標として、大学全体また各組織において、その達成を目指した教育研究活動を推進することとしています。
 また、到達目標の達成を目指すために、平成十五年一月の評議会で学長が提示した『広島大学の長期ビジョン』の行動計画を念頭に入れ、平成十六年四月からの六年間は、行動計画におけるステップ1(基盤整備)からステップ2(体制づくり)への段階と捉え、そこに掲げられている計画を達成するため、中期目標においてもそれを踏まえた具体的な目標が九つ(以下に示す目標のうち、で表記しているもの)掲げられています。

中期目標・中期計画
 文部科学省から提示されている中期目標・中期計画の様式では、「大学の教育研究等の質の向上に関する目標と計画」、「業務運営の改善及び効率化に関する目標と計画」、「財務内容の改善に関する目標と計画」、「自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標と計画」、「その他業務運営に関する重要目標と計画」、という五つのカテゴリーで記載することとされており、本学でもこれに従って作成しています。
 以下に、「大学の教育研究等の質の向上に関する目標と計画」に関することを中心にして、先の九の具体的な目標とともに各カテゴリーでの主な目標(で表記)とそれに対する計画(で表記)を示すこととします。

大学の教育研究等の質の向上に関する目標と計画
◎ 教育活動と研究活動のいずれにおいても、国際的に上位にランクされ、特筆すべき教育研究を進めている最高水準の教育研究機関となることを目指す。

教育に関する目標・計画
○ 教育目的と卒業生像・修了生像を明確にし、到達目標型教育による教育の質的向上を図る。
□ 教育の到達目標を全学的視野で設定し、到達度を定量的に評価する。継続的な到達度測定を実施し、カリキュラムや教育内容の改革・改善を図る。
「学士課程」
◎ 到達目標型教育の下での教育プログラムによって、基礎力と応用力を兼ね備えた柔軟性に富む人材を社会に送り出す。
 アドミッションセンターを「入学センター」として改組・拡充するとともに、入学者選抜を「一般選抜」と推薦入学を包括する「AO選抜」の二種類に集約し、入学希望者の進路意識や学力構造の多様化に対応する。
「大学院課程」
◎ 国内外の拠点大学として、研究と直結した教育を充実させ、質の高い課程博士を輩出し、国際的に活躍できる研究者を養成するとともに、実践的な教育を充実させ、社会的・国際的に通用する高度専門職業人を養成する。
「フェニックス入学制度」の促進等による幅広い年齢層の社会人の受入れ、海外教育研究拠点の設置等による留学生の積極的な受入れなど、優れた多様な学生の入学を促す。
「学生への支援」
 学生ためのサービスを有機的に統合する「学生総合支援センター」の設置や学生就職センターの「キャリアデザインセンター」への改組等により、学生支援体制の質的向上を目指す。

研究に関する目標・計画
◎ 学術研究のレベルを高めるための重点計画を策定するとともに、「世界トップレベルの研究」の達成を目指すための環境を整備し、次世代の学術をリードし知的文化の創造に発展しうる研究シーズを育成する。
 高いレベルの基礎研究や優れた先端的研究を重点的に推進する。
 研究活動の評価・改善等を行い大学としての重点領域に必要な研究者等の重点的配置を行う。
 世界をリードし得る学術研究領域を次の三つの区分で選び出し、重点的な育成を図ることにより、研究拠点形成を促進し、二十一世紀COE等の国家プロジェクトに積極的に応募する。
  1. 既にCOEに選定された課題に関する学術研究領域を整備し、より高度な研究拠点化を図る。
  2. 既に高い研究遂行ポテンシャルを有する課題に関する学術研究領域を重点的に整備・強化し高度な研究拠点化を図る。
  3. 今後、国際的基準で高い評価を受けるポテンシャルを持つと考えられる学術研究領域を「プロジェクト研究センター」設置などにより重点的育成を図る。

その他の目標・計画
「社会連携」
◎ 社会貢献を果たすために、地域社会と緊密な連携を構築し、多様な社会的ニーズに的確に対応する。
○ 大学の有する知的・人的・物的資源を積極的に開放・活用し、未来社会の創造に貢献するとともに、産官学関連事業、地域貢献事業を展開する。
□ 産学官民等のニーズに対応した社会連携活動推進のための体制を整備する。
「国際交流」
◎ 国際競争力を強化し、教職員・学生の国際的な場での活躍を促進するとともに、国際的な交流・連携・協力体制を整備する。
 留学生交流や教育研究の交流促進のための全学的体制の整備・拡充とともに、留学・海外研修を拡充し、学生・教職員の海外派遣・海外授業を推進する。
 北京研究センターを拡充するとともに、国際大学ネットワーク(INU)の拠点校として外国大学・機関への情報提供や連携を強化する。
「附属病院」
 優れた医療人を育成するために、体系的で質の高い臨床実習教育及び卒後臨床実習を実施する。
 特定機能病院として、先端医療の開発と高度先進医療を展開する。
 地域の基幹病院として、他の医療機関と連携を強化する。
 安全な医療を提供し健全な病院経営を図る。
「附属学校」
 大学の附属学校として、質の高い教育実習と実践的共同研究を積極的に推進する。
 五地域に分かれている附属幼稚園・小・中・高等学校を三つの組織へ再編・統合し、附属学校の機能をより高める。

業務運営の改善及び効率化に関する目標と計画

◎ 「人材、施設、財源」を一括管理して全学的視野で大学運営の目標・計画を設定し、全学的立場からこれを実施する。
 学長のリーダーシップの下に効果的な組織運営を実施するための全学的運営体制を構築し、学長を中心とした企画・立案、執行、評価、改善の機能を強化する。
◎ 公正な能力・業績評価システムの下で、教職員が自らの潜在的能力を十分に発揮できる環境を創る。
 教育・研究・社会貢献などの諸活動と効率的な組織運営を支える基盤的な情報通信環境を充実し、情報メディアに関する教育研究組織ならびに支援体制を整備する。また、教職員・学生間の情報の共有と社会に対する情報公開を促進し、積極的な広報活動を行う。

財務内容の改善に関する目標と計画

 外部研究資金の増加を図るため具体的目標計画を立て、外部研究資金については倍額を目指す。
 管理的経費(光熱水料、施設維持管理経費、管理運営に関する人件費等)等の行政コストの削減計画を設定し、固定的な経費の抑制に努める。

自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標と計画

 社会に対する説明責任を重視し、大学運営全般にわたりその状況を、ホームページ等を利用して情報提供を行う。
 評価データシステムの導入による学内評価体制を整備し、評価結果を改善策に反映させるシステムを作る。

その他業務運営に関する重要目標と計画

 全学的な施設整備計画を策定し、施設マネジメント体制の下での一元的管理の推進とともに、安全、アメニティ、環境に配慮した社会に開かれた美しく快適なキャンパスを実現する。
 環境保全管理計画に基づき、中・長期的視点に立って、学内の安全管理対策を徹底するとともに、全学のリスクマネジメント体制を充実させ、事故防止策を講じる。

研究科、学部などの設置と収容定員

 研究科や学部などの具体の設置については、各国立大学法人の意見に配慮して定めることとされている中期目標において記載し、それを前提に各大学で教育研究組織を編制することとされています。従って、中期目標に係る教育研究上の基本組織として、別表に学部、研究科、附置研究所を記載するとともに、中期計画の別表においても研究科、学部の収容定員を記載しております。

*   *   *

 このたびの中期目標・中期計画(素案)は、国立大学法人広島大学としての六年間の目標・計画であるとともに、社会に対する説明責任をもつものでもあります。これからは全構成員が目標に向って、計画に取り組み、「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」の実現を図ることが重要であります。なお、この素案はすでに他の国立大学とともに文部科学省のホームページ
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/index.htm
で公表されておりますので、全容についても参照いただければと思います。



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